2004.12号
特集
<連載>
'05年の繊維機械世界市場を探る(上)
設備投資は一段落高級機指向根強い
国際情勢もさることながら、世界経済もカオスの状態が強まってきている。米は双子の赤字とイラク戦費負担でドル独歩安、中国も金融引締めと利上げと財政悪化、これに原油高が加わって先行き予断を許さなくなっている。この巨大両国市場が怪しくなると、世界の景気にどれほどの影響を及ぼすか計り知れない。この両国に貿易の50%近くを占めてきた日本だが、このところの円高が更に先行き不安に拍車をかけている。
繊維機械の生産の約90%は輸出される。ここ数年間は輸出の50%余り(香港を含む)は中国向けで占めてきた。それまでは韓台アセアン諸国向けで70%近くに達していたが、昨今は輸出に占める割合は韓台合わせても全体の6%そこそこである。ではどこに新天地を求めることになるのか。依然として中国向けにこだわるのか、あるいはインドなど西南アジア、アセアン諸国への見直し、あるいはトルコやメキシコなどに軸足をかけることも必要かも知れない。ともあれ、'05年は円高・原油高も手伝ってターニングポイントを迎えようとしている。
〔第1部〕
機械を売込むなら、まず先進消費国の傾向を捉め
設備規模より生産・加工技術の移転が焦点
日本の景気は巨大2市場「米の消費と中の生産」動向次第で左右
編集部(以下、編と省略) 米大統領選挙でブッシュが再選されてほっとした大手メーカーや商社が多かったことだろう。米の対イラク、対北朝鮮の政策変更はないだろうが、対イランやパレスチナ問題、さらに双子の赤字(財政・経常)と原油高でドル全面安を危惧する向きは、日本のみならず韓台はそれ以上に打撃をうける。なにより深刻なのはアセアン諸国だろう。
記者(以下、記と省略) 中国だって米の景気が腰折れすると大打撃だ。輸出は減少するし(対米輸出は日本を抜いた)保有する米国債も目減りする。だから両国ともいま波風をたてまいと気を使いあっている状況だ。このところ米から中国人民元の切上げ圧力が選挙もあって緩やかになっているが、中国側も昨年あたりから手を打ってきており、金融貸出し規制のほか、先ごろ9年ぶりに銀行の貸出金利を年利5.58%に引き上げた。しかしこれら一連の対策でも効果のほどを疑問視するのが、特に欧米の関係者の間では根強い。逆に日韓やアセアン諸国はホッとしていることだろう。この程度の金利引上げで済んだことに胸をなでおろしており、オーバーキルになって急激な景気後退の心配は避けられそうだ。むしろ小泉首相の靖国と歴史認識といった政治問題が交易に影響しないかと経済界は心配している。
編 中国の経済やイラク戦争、更にイランや北朝鮮の核疑惑といったことに世界は注視しているが、アジアや欧州諸国のインテリ連中が恐れているのは、ほかならぬアメリカの保守右傾向化と米ドルの暴落だ。一方は更なる"ユニテラ"が強まったり、片やインフレを助長するとして"保護貿易"に走ったりしないかを心配する。
二言目には「日米同盟」は強固と政府は呪文のように唱えるが、内心は「どうかこれ以上の円高ドル安は困る」と思っているに違いない。日銀はもっとひやひやしているのではないか。一方で景気は底上げしているといいながら「ゼロ金利は当分続ける」と矛盾した苦しい説明に終始している。そのうえ円高で100円を割りそうになれば、今度は恐らく日米同時介入に踏み切ることになるだろうと思う(もし民主党ケリー氏が当選していたなら協調介入はしないだろうけれど)。それでも中国は人民元切上げに抵抗し、北京オリンピック前まで持ちこたえ、直前に実施してガッポリ外貨を稼ぐことだろう。いま中国のインフレ率は農村部では2%ぐらいだが、大都市部や沿岸地域では年率5〜6%といわれる。これじゃ、さきに引き上げた預金金利2.25%(1年もの)も高所得者にとっては日本と同様にタンス預金か、物や車やレジャー、貴族学校等の教育に回すだろうし、利権や汚職もなくならない。
日本からの中国進出はぼちぼち限界だと思われがちだが、例えば自動車大手3社、家電も飽和が近いといわれながら大型工場を長江中域に新設するという。他方、繊維では今冬向けキャンペーン中の「カシミアセーター」の生産が間に合わないほどの大忙し。ニット機械(大半は手横か半自動機だが)導入が今も続いている。ところが、中国でこの夏、産業資材特に銅の価格が急落し、鋼材も自動車向け薄板を除いて相場が下降しており、またナフサやエチレンなど樹脂や合繊材料の石化関連の輸入は頭打ちだが、原油そのものの輸入は1〜9月の対前年比で30%以上増えている。
記 原油価格が上っても輸入が増えているのは、買付けと入荷にタイムラグがあるからだが、現在でも手当て契約はさほど減っていないという。日本の新聞には載らないが、米の極東戦略研究者のレポートによると「中国の人民軍特に海軍と空軍が燃料備蓄を急激に増やしている」としている。乗用車やトラックのガソリンや軽油の需要が年々30%も増えるワケがないし、電力不足といっても発電所の80%近くが石炭火力だ。原子力発電もすでに10数基が稼動し、ここ5年内に8基が操業を始めるし、更に10年後に6基が追加される。25年後には150万kwクラスの原発を48ヵ所にする計画を立てている(日本の既存炉は計52基)。そのうち三峡ダムが完成すれば、エネルギー問題はほぼ大丈夫という見通しをたてているようだ。
編 問題は水と食料だな。地球温暖化で洪水と干ばつが繰り返され、砂漠化も塩害も年々日本の四国ほどの農地や森林が不毛化している。そのうえ中国には現在1,200万人の失業者があふれ、加えて農村から毎年500万人もの出稼ぎ労働者が"盲流"してくる。これら過剰労働者をどう救済するのか。90年代の日本のように、赤字国債で公共投資をするつもりだろうか。国営の大半は赤字のうえ人員削減に走っており、私営も外資系工場もこれまでのような低賃金・代替工場向けの投資熱は冷めつつある。"万里の長城"現代版として、長江から水不足に悩む黄河に運河(宋の時代の遺跡が少し残っているようだが)を通すとか、早く北京・上海間の新幹線を急ピッチでやるなり、道路や治水など、インフラ整備で地域の振興をはかれば一挙両得なのだがね。そのために世銀やODAの借入資金を投入すれば、インフレもデフレも相当防げるのではないか。
「ポスト中国はインド」はまだ早計、アセアン包括自由市場に上積み進出を
記 日本の経済に変調がみえはじめ、7〜9月のGDPは0.3%に下降した(1〜3月は年率換算6.3%、4〜6月1.1%)これは米中両国向け輸出が減ったこと、国内の設備投資が0.2%のマイナス、輸出もわずか0.4%増にとどまり(米中向けの減少が要因)足元がおかしくなってきた。
ここ1年、中国市場を中心に記事を書いてきたが、こと繊維機械に関しては、次の市場に目を向けていかねばと思ってみたものの、今ひとつインパクトに乏しい。強いてあげればインド、パキスタンなどの西南アやトルコへは紡績と合繊、それに織機やニット機などが、ネシアとマレーシアには現地直接投資が再び見直されるかもね。タイとメキシコは産資用が拡大しつつある。一局集中豪雨から広く浅くシトシト降る春雨型になってくるのではと思えてならない。
編 タイトルに「日米欧先進国の消費動向と購買傾向を捉め」とかかげたが、米国以外の日欧諸国の衣料購入額はわずかながらダウンしている。シャツや肌着などはスーパーや通販で買う機会が多く、量的に落ち込んでいないが、婦人・紳士服には世界的にも高級ファッションものは低迷気味だとしている。逆にスポーツ・レジャー向けやカジュアル・ブレザーといった、それも個性的なもので比較的単価の高いものが売れ筋だといい、これまた先進諸国での全般的傾向としている。
記 ということは高級多様化に対応できる製品生産国は、日本と伊英仏に米国の1部ということか。ただ欧州は生産コストの安いスペインやスロバキア(旧東欧圏の時代から繊維やワインの産地)それに近年、EU資本による工場進出で活況化しつつあるトルコが刺激を受けたか、高級多様化製品に対応すべく設備の更新に走りだした。同国もEU加盟を意識して外資向け優遇措置、国内産業振興に力を入れていること、地中海の対岸のリビアの経済封鎖解禁が、しかも同じイスラム国ということもあり、地続きのイラク問題が落ち着けば両にらみでその有利性が生じる。
編 ここ数年の間、中国向け一局集中と1部アセアン向け、昨今の印パ両国でわが国の繊維機械メーカーはそこそこに潤ったものの、もし中国が落ち込めばどうなるのか。代替市場としていま君に掲げてもらったが、ひとつ抜け落ちているところがある。それが韓国と台湾の例えばファインヤーンなどの高級糸や産資用の原糸生産への転換拡大だろう。彼等はすでに高度紡糸技術を持っているし、日本から人材もスカウトしてきた。韓国からPEタイヤコードやスパンデックスが日本に安く大量に入ってきているし、台湾も米中向けが停滞すればPOYや加工糸と同様に、例えばカーシートやシートベルト、高級ニットやインテリアまでもを俎上にのせつつある。
記 これらの機械設備を日本から輸入してくれるのは有難いが、人材や紡糸・加工技術まで流出する懸念がこれまでにもしばしば指摘されてきた。欧州の機械メーカーやエンジニアリングあるいは技術コンサルタント企業には、もはや日本に対抗しうる技術レベルの高いメーカーや技術者はほとんどいない。しかもこれらノウハウ、ソフトのレクチャーフィーは日本の相場より20〜60%は高い。もちろん「アゴ足代」も割高だ。この面では日本は絶対的優位にあるものの、ハイテク技術、例えば超マイクロファイバーや炭素繊維やポリエチレンヤーンなどのスーパー繊維の生産技術は絶対に門外不出だといわれ、機械や設備メーカーは泣く泣く海外からの引合いを見送らざるをえなかった。かといって、現地合弁進出で生産する場合でも、ほどほどの技術水準のものが殆んど。ただ例えば東レが韓国セハン(旧第1合繊グループ)を買収して新規にポリエス2軸延伸フィルムを製造する時などには、新鋭設備と先端技術を持込んでいる。
編 これから高級糸や特殊糸を海外で生産する場合、資本も設備も技術も100%自前のもので進出するケースが今後急増すると思うよ。合弁それも相手側と半々か51%を握られるケースしか認可しない国なら、進出をあきらめた方が良い。これまで韓やアセアン諸国、そして中国、インドなどには合弁進出した中小繊維や機械・部用品メーカーは、たとえ日本商社が斡旋、あるいは1部事業に噛んでいても、これまでの例を見るかぎり、大半は喰いものにされるか、存続していても資金その他で苦労続きのところが大半ではないか。
これまでの経緯そして現状を分析するかぎり、繊維にしても機械にしても「技術ノウハウの譲渡または移転」で現地側とどう折り合うかが、海外生産の成否を握っているといって過言ではない。これは合弁であれ100%進出であれ、よほどの中長期戦略と経営的技術的ノウハウ、そして資金繰り、世界景気動向、さらにカントリーリスクや労務対策、事故・テロ・誘拐など危機管理、為替などなど、あらゆるリスクを勘案しておくことが必要でありそうだ。
中国の中小繊維の資金繰り悪化で一部に支払遅延、担保など制度上の欠陥も
記 東西冷戦後間もなく西独の中小機械メーカーが、東独とのレートが1対1の対等価値というので倒産寸前の東独側の工場を国営信託公社から融資を受けて買収して操業を始めようとしたら、突然、従業員は20%以上クビを切ってはダメ、自前のトラック輸送は不許可で旧国労の運送会社の車だけしか積んではいけないと規制され、嫌気をさしてスツゥットガルト(ベンツの本社工場や繊機とくにニット機や紡績搬送システムやセンサー類の中小メーカーが周辺に多い都市)に逃げ帰ってきた企業が10指あまりもあったと95年のITMAミラノ展でしみじみ私に語っていたよ。おいしそうな商談には飛びつくな注意しろという話だが、かといって腰が重いとチャンスも逃がし他社にもっていかれる。その辺が、景気下降時期にはとくに判断が難しいのではないか。
中国は恐らく今回の引き締め、投資抑制によって資金繰り悪化で、腰の弱い中小メーカーは倒産や工場閉鎖が多発すると思われる。95〜97年の超円高・アジアそして日本の金融危機、リストラの嵐といった時期が、こんご再び米から中国を経て日本に戻ってリセッションを引き起こしかねない(原油高とIT不況と日米中の財政赤字と増税が重なれば必然的にスタグフレーションの警報が鳴る)その時にこそ中国の傾いた技術レベルの高い工場を買い叩くか、保護貿易のくびきから解放され自由資本主義市場のインドの大地に根を下ろしに行くかの判断に迫られ、そのうえですぐ行動に移すことができるかどうか。それこそ国際情勢、情報収集と分析、市場動向を常日頃から把握しておく必要がある。
編 米中両国の景気動向も気にかかるが、江沢民から胡錦涛(フー・チンタオ)へ、片やブッシュが再選され、イラクやパレスチナはともかく、イラン・北朝鮮の濃縮核燃料やミサイル問題(どちらにも中国とロシアがからんでいる)さらに石油や台湾問題もあって、地政学上で日本も重い網にからんで複雑模様を描いている。中国の大型案件である新幹線車両や交通システムでは仏や独と日本が、また原発プラントでは仏アレバ社と米GE・三菱重工連合が受注を競い合っている。更にいま論議が活発な米軍の国際戦略再編成で厚木に指令本部を北西部のワシントン州から移転させようとのネゴ中に、中国の原潜が石垣島の領海を潜ったまま通過するなど、キナ臭い刺激を起こしている。貿易だって中国は日本を抜いて大幅に伸ばしている。もし米が中に対して人民元切上げを強く迫ったり、米が301条の数量規制をしようとすれば中国はどういった対応を、また北朝鮮核問題がこじれて米が軍事圧力をかけようとすると中国は、日本はどういった態度をとるだろうか。
記 そうなれば、一番困るのは日本と韓国だろう。日本の既存進出企業は成り行きを見守るだけだが、新規進出や資本投下はストップするだろう。今のところ日本より米の方が中国での資本投下額が多い。しかし今年に入って日本とEUからの資金が急増しているようだ。
中国は今せっせと外貨をユーロに切り換えている(だからユーロ高ということではない)要するに武器や航空機をEUから買い付けるぞというデモンストレーションだ。参考のために記すが−−米の国債保有状況を('04.9末)見ると、発行総額は3兆7,000億ドル、そのうち米本国が50.3%、日本19.5%、第3位が中国だがたった4.7%、盟友とされる英は3.6%、韓国1.7%、EUや中東やアセアン諸国合わせて17.7%といったところ。日本が突出しているが、ドル暴落で100円を割れば日銀はたちまち7兆円近い差損(決済すればの話だが)が生じる。とっくに危険水域にきているものの、債権売却は日米お互いの首を絞めることになる。ブッシュ2期目の年頭教書で、国内経済政策の指針に注目されるところだ。相変わらず所得減税や農産物補助金(円換算で約40兆円。畜産物を含む)で財政赤字を続けていくのだろうか。もっとも、たとえドル安政策を採ったところで、海外投資や貿易赤字が急減するハズもない。
アセアン経済共同体に韓は期待、中国は個々のFTAで対抗か
編 国際情勢、世界経済、安全保障(核やテロ、地域紛争そして領土領海も含めて)加えて原油など資源確保、食料と飢餓問題等々、すべてが重大懸案としてあげられているものの解決の糸口は簡単にみつからない。さらにハンチントン教授のいう、いわゆる「文明の衝突」とくに「中東問題」が石油とからんで治りそうにない。こうした不安を不透明が更に拡がっている時期に景気だけが上向くわけもない。依然として米中2大市場に希望を託すことになりそうだが、日本やEUやBRIC'sといった脇役も今の情勢ではむやみに動けないだろう。要するに世界が"金縛り"状態とあっては、経済もそれぞれ内向きの政策しかとれないのでは。従って、'05年はクソ面白くない年になりそうな予想をたてているよ。
記 まだ先の話だが、つい先頃のラオス・ビエンチャンでのアセアン・プラス3で表明された域内の"自由解放統一市場"それに加えて日中韓3国の"東アジア行動戦略"更にこれらを拡大した「東アジア共同体」への構想が浮上してきたことに注目すべきだ。これらは米を核とするNAFTA、欧州拡大EUを意識したものと思われるが、立ち遅れているのか乗り遅れそうなのがロシアとインド、ブラジルの3大国だ。経済成長大国と目されているBRIC'sのうちの3カ国がどの共同体にも属していないし構想もでてこない。しかし中国はブラジルで鉱山に投資しているし、大量の穀物などを買い付けている。ブラジルは武器の輸出大国だが、飛行機や潜水艦などは米から買い入れている。万一米中両国間で台湾や北朝鮮問題がこじれ、あるいは人民元切上げや貿易不均衡、金融・投資・送金制度の不整備などで米の不満が表面化するとか、更に原油争奪戦で石油メジャーと利害対立が出てくることもあろう。その辺りを見越して、中国は日米同盟が強固だと分かっていながら索制するか出方をうかがうべく執拗に靖国だ歴史認識を持ちだしているのかも知れない。しかし日本側の相変わらずのノラリクラリの姿勢に終始していることから、いっぱつ潜水艦を領海侵犯させてブッシュも出席するAPECあるいはカンボジアでのアセアンで首脳会談をセットさせ、日米の反応をみようというしたたかさは、日本に比べようもない老獪ぶりだ。
編 中印はこれまでチベット帰属で長年対立していたが、やっと昨年の首脳会談で和解したばかり。ところが石油争奪合戦で両国はアフリカのナイジェリアやアンゴラで手をつけていたインドを中国が後から来て、資金供与をインドの10倍も出してひっくり返してしまった。インドにすれば「仲直りしたのになんだ」という気になったのではないか。その辺りに、日本が対印進出を好条件でつけ入るチャンスでもあると思うのだが−−インドが一段の門戸開放策を打ち出してくれれば、日本のみならず韓やEU、場合によっては台湾も豪もロシアも参入してくるのではないか。インドの首相もタイと同様に経済に明るいようだから、遠からず期待できると思うよ。外資100%進出OKなら、繊維や機械メーカーも勢いづくのだがね。何より英語が通じ宗教も対外的には問題ないし、ITやソフト開発も容易だし。ただ「中国は限界だ。つぎはインドで」というのは少々安易な考えだと思うよ。ニコニコしながら日本から経済協力を引き出し、ITソフトの仕事は米としながら、体質や本音は欧州指向ということもことも頭に叩き込んでおく必要もありそうだ。
記 再び話しを中国に戻して申し訳ないが、この連載特集の最後にぜひ話題として云いたいのが「日中韓で合意した"行動戦略"の中味と実行性」のことだ。これはビエンチャンで3国首脳で話し合った研究報告書の中の、中国に改善を求めたビジネス環境の内容に、できるだけグローバルスタンダードに近づけるという要請がなされたことが、特に日本企業・金融界にとって大きなことと注視してよいのではないか。この提案は1年前にも、また今年6月の中国・青島の外相会議でも認識が一致して、日韓が早期に協定策定を求めてきたことだった。
編 3年も前にWTOに加盟しているのに、それ以前とあまり変わっていないことになる。知的財産権の保護とか投資認可手続きの簡素化とか、行政処分の不服申し立て制度、許認可の規定内容と基準化等々だが、本当を云えばWTO加盟以前に整備しておかねばならないことばかりだ。投資や売掛債権回収に伴うトラブルも多発している。外為法の大改革は早急に断行する必要がある。とはいっても、日本もやっと90年代に入って金融ビックバンをしたばかりなので、あまり偉そうなことも云えないね。規制緩和を唱えながら進んでいないことも、また古い官僚制度が残っているのも、人治コネ社会、汚職も相変わらずなのも日中似通っているしね。
記 いま米のペンタゴンがすすめている米軍再編成に伴う戦略の練り直しが行われているが、そのうちの焦点となっているのが東北アジアから台湾海峡を経て東南アジア、西南アジアから中東に至るゾーンを、いわゆる「不安定の弧」としてテロや国際紛争の種を内蔵している警戒地域と位置づけている。
この例に見習って同じ弧を描くと、繊維機械の輸出仕向国がスッポリと治ってしまう。トルコも中東に含まれるので、輸出の80〜90%がこのゾーンの中に入ってしまう。我々からすれば、米軍の新思考戦略の中にスッポリと組み込まれてしまうわけだ。それだけカントリーリスクが高い国々地域との交易を行っているわけだ。
編 これら"不安定の弧"に重なって自由貿易ゾーンを形成しようと提言しているのが「東アジア共同体」となると、米やオセアニアに加え、インドやパキスタン、さらに極東ロシア辺りからも、何かとクレームをつけてくるのではないか。さらにこの構想はアセアン諸国からも日中韓といった北の経済大国に飲み込まれ、更なる経済格差を生みかねないとする警戒感がでてこないか。更に云えば、アセアン諸国の中国に対する一種のアレルギーが未だに消えていないのではないか。そもそもアセアンが出来たきっかけがベトナム戦争など共産の膨張主義を防ぐべく急拠結成された反共連合から出発している。そしていま安い労働力のみならず、物産商品まで影響を及ぼされることになれば、まさに"経済侵略"と映る可能性も無きにしも非ずだ。
日本はこれまで対アセアン経済協力として、ODAなど有償無償を含めて延べ10兆円以上の資金供与を行ってきた。企業進出もこれまで活発だったが、ここ10年前から大半は中国に集中して空洞化が生じている。特にアセアンに新規加盟のベトナムやカンボジアなどに対中警戒論者が政府内でも多数派で占めている。南沙諸島の石油ガス資源を巡って中国の覇権膨張主義が紛争のタネとなっていた。それが日韓に中国が加われば拒絶反応を起こさないか心配だ。
記 だからこそ、中国経済がスローダウンし、人民元が切り上がる前に日本から再度アセアン諸国やインドなどに企業進出や資本投下といった手を打っておくことも必要だろう。単にプラントや機械だけを売るだけでなく、技術指導や移転、部用品の現地生産委託までトータルで考えた戦略的な展開が必須条件になると思っている。
編 ここで'05年の世界経済、特にアジアを中心とした輸出市場の動向をまとめてみたい。
(1)米中英は金利上昇や原油高どまりで成長鈍り、その影響で、特にOECD諸国の実質GDPは軒並みダウン(名目はスタグフレーション含みでゼロ成長に近い)
(2)中国はなお7.2〜7.5%の成長を維持するとされるが、繊維プラントの新更新需要は外資系の投資を含め約15%減少と予想('04年の日本の対中輸出額は対前年比18%減の1,050億円程度と予測。従って'05年は1,000億円弱と見られる)
(3)中国向け輸出の減少分を印パ、トルコ、アセアン諸国、メキシコ、ブラジル、南アなどの市場拡大でカバーできるかどうか。実現可能なら輸出総額2,500億円(但し、日本からの海外投資分を含む)を維持できよう。
(4)日本の主要輸出市場は、いわゆる"不安定の弧"のゾーンが大部分。従ってカントリーリスクを計算に入れる必要がある。
(5)内需は衣料消費は保険・年金のほか税制改革、所得頭打ちで減少。高級衣料や産資用生産も頭打ち。円高、失業、いずれ到来するIT不況の影響に振り回されるかも。
(6)輸出取引の決済内容は、ドル建てドル払いは少なく、昨今は円建てドル払いか、たまに円建て円払いもある。
'03年初から'04年3月まで日銀は35兆円もの円売りドル買いをしてなお約12円切り上がった。介入をやめて8カ月間で5〜6円切り上がっただけ。為替も原油も少し落ち付いてきた。レートよりもむしろ長期金利の動きに目を向けてはどうか。
(7)日本はシンガポールとFTA協定を結んだ。同国の銀行や商社と組んで他のアセアン諸国への現地共同進出する方式(資本と技術移転に加えてリスクヘッジを兼ねる)が増えてくるかも知れない。'05年10月のITMAシンガポールがそのきっかけになればよいと思う。