<TOPIC>
特別連載
2004.3号
中国市場の行方
日本の繊維と設備機械−その実態を探る−(下)
中国人民元の対ドルレートの切上げが始まるのか。繊維工業の設備新増設・更新がどこまで進むのか? 昨年12月の上海テックスでも日欧ビジネスマンの二大歓心事だった。
中国は一昨年WTOに加盟したことで、特に欧米からの投資が急増している。日本からは当初、繊維や家電など軽工業の進出が中心だったが、いまやデジタル製品から自動車、物流にまで拡大している。しかしその実態は大半がOEMか合弁形式。繊維は合繊、紡績大手の一部を除いて直接投資は殆どなく、生産・加工ノウハウを指導しての(資本供与も含めて)委託が90%を占める。しかし一方で「衣料の生産進出は限界にきた」といった声も出てきた。日本からの現地工場向け設備機械の輸出割合が急速に低下しているからだ。今後の展開は!!
<第一部>
中国元切上げムードで業界はどう反応するのか
編(編集部) 昨年、この中国市場についての連載記事の中で、すでに「人民元切上げ圧力で、駆込み需要が出てくるのかどうか」を記述した。
記(記者) 昨年暮れの上海テックスでの中国側と日欧の出展者側の反応は、どちらも鈍く一様に「徐々に僅かずつ切上げていくだろうから、輸出入とも影響は極小」というのが結論。ただ急激な切上げ、あるいは切上げ率が大幅になる場合は、特に繊維製品のような大量生産型で付加価値の低いものは売り手にとっても辛いし、当然ながら買い手も切上げ分の支払い負担がかかるので、お互いの利益が目減りし、その間、賃金や電力など固定費も上昇するとみられるので、内外互いに現状維持がベターだと。
編 海外から指摘されてきた中央政府系銀行のうち、核となる大手商業銀行の中国銀行が、このほど500〜600億元(円換算約7,000億円)の劣後債を発行するなど、日本の大手中堅銀行と同様に、債券発行で得た資金を自己資本に繰入れて不良債権を処理するのが狙い。
ちなみに、日米の投資機関ではよく知られることだが、中国4大国有商業銀行のうちでも自己資本率が一番高い前出の中国銀行で6.38%とBIS基準に届かない。しかも同行の不良債権比率は28〜29%にも達する。他に工商銀行の4.57%(不債32%)建設銀行3.79%(同28%)農業銀行に到っては1.44%(同約34%)と、先に日本で騒がれた足利銀行のさらに半分以下と劣悪だ。
記 経済成長のひずみといえそうだが、それにしても日本の87〜90年のバブル期に似ているが、実態は中国当局によってコントロールされており、不動産・建設ラッシュも北京オリンピックまでには終息するとみている。
レーガン大統領時代のドル高を是正するための85年10月のG5プラザ合意(竹下蔵相)で、それまで1ドル240円台が、僅か半年で150〜160円に急騰して“円高不況”といわれたものだ。繊維業界も当局を動かして織機など過剰設備を公金で買上げ廃棄するなどした。ところがどうだ。金融緩和・貸出し拡張路線によって不動産バブル、評価の上昇した土地建物を担保に資金を借入れたり、上場企業は転換社債発行、果てはエクイティ・ファイナンスと称してアブク銭を掴んで無駄な設備拡張、果てはゴルフ場にまで手を出すなど、まさに“ノー天気”経営陣の罪は大きかった。そして今度は中国投資熱。
編 中国への投資姿勢は日欧米ともそれぞれニュアンスが異なっているように見える。香港や台湾は”混成同体”で溶け込んでいるが、韓国のそれは日本とも違っている。ただ共通して望んでいること、それは“元の切上げ”なのだが、日韓台やアセアン諸国ともども、特に米などに比べ切上げ圧力あるいは要請はさほど強くなっていない。
記 業種や投資、進出形態によって異なってくる。米も衣料雑貨や黒人団体などは切上げろ、石油化学や物流、航空機メーカーなど長期契約企業それに農業団体などは消極派、金融・投資や小売業者などはダンマリで推移見守り型。それぞれの立場あるいは打算で、大統領選を前にロビー活動しており、それに財務省がおずおずと中国と交渉を始めたといったことではないのか。日本もEUもその辺を見透かして、本気になって腰を上げようとはしていない。
編 これから「通貨外交」が本格化するようだが、年内に2〜3%程度といった軟着陸の“約束”(実施ではない)をするくらいだろう。ドルが暴落すれば別だが−−中国としては、せめて北京オリンピックまでドルの威信を保っていて欲しいといったところか。もし中国が近い将来「円・ドル・ユーロの3極主軸の変動相場制」に人民元が加われば、欧米の大手金融や投資銀行あるいは香港・シンガポールの不動産投資銀行などは大喜びで中国市場に雪崩込むことだろう。なにせ13億の大国で7〜9%の成長率を保つところは世界で他に見当たらないからね。
記 すでに外資系銀行などは元建て国債を活発に買っているらしい。でも思惑は結構だが、そのうち失望売りも考えられる。なにせ中国はしたたかで、かつ慎重だ。少なくとも米大統領選挙の具にされることを避けるだろう。年内は具体的に動かないと思う。むしろ“ドル信任”で米に逆攻勢をかけてくることも考えられる。その時日本やEUが中国と共同歩調をとれるかどうかも為替戦略として検討課題だろう。もちろん中国進出メーカーも貿易商社も利害が直接絡んでくるだけに、一連の動きあるいは流れを把握しておくこと肝要。いやこれは“釈迦に説法”と云うべきかも。日本は少なくともニクソンショック以来、為替ではいつもひどい目にあってきたのだから。