2004.1号
<TOPICS>
「上海テックス」現場から見えた中国の展望
昨年12月に開催された上海テックスの取材に出掛けた。中国でこの種の展示会は上海のみならず、北京や広州でもワンサとビジターが押しかけるようで、この状況がすぐ需要に結びつくことはないものの、その旺盛な意気込みと「この設備を導入することで、どれだけのパフォーマンス効果を期待できるか」ということではカスタマーの要求は一致している。
そこで「上海展」で得た欧州のメーカーの本音、韓台の対中の接し方について、彼らの狙いや見解について、その代表例をあげてみた。では中国の機械メーカーは受身で甘んじているのか。いずれ国内自給と主にアセアン向け輸出を狙うべく爪を磨いでいると見ている。
日本で作らない、作れないものを売る − EU
−−欧州の連中は、まず口を揃えて「Euroが割高になって売れにくくなった」「はじめから日本と競合するものは今後避けたい。距離、メンテ、ユーロ高などを考えると日本には勝てない」「コマーシャルで売りたい機械があれば、今後合弁工場を設立し、現地調達が難しい部品、装置、コントロールパネルなどは輸出して組み立て販売したいと考えていたが、中国側は逆に主要部品や駆動システムのノウハウを買いたい。あとは現地側で作るから。南アジアや綿産地のインド、メキシコ、中央アジア、東アフリカ諸国、トルコも有望だと聞いているが、輸出の方は欧州側の協力を得たい」と。
−−欧州の連中は声を揃えて「中国の連中は最初甘い話でもって歓心をあおり、内容を詰めていくと身勝手なことばかりだ。資金も技術も乏しいうえ、需要規模も分かっておらず、我々の常識とされる市場調査の意味も分かっていない。そんなところと組めるはずもない」とグチっぽく語っていた。そのうえ、あるメーカーは「今後は日本や中国で作っていない特殊機械や装置(いわばニッチ機種)あるいはコストや性能で優位に立てるものを持ち込む必要にせまられるだろう」と。その代表例として、☆不織布設備(これから急速に伸びる) ☆高性能タフティング・カーペットマシンやカーシート用織機・編機 ☆金網・フェルト・キャンパス・タイヤコード・ホース用などの特殊織機 ☆以上の布やシートの仕上設備および特殊染色・整理 ☆ケミカルまたはリーバーレース機(レースラッシェル機はほぼ満杯)といった日本では作っていないもの、あるいは作っていたが生産をやめたものが多く、異外や異外、まだ欧州でこれら機械メーカーが存続していたことに驚いたものだ。
−−ついでにいえば、例えば不織布の場合“スパンボンド製造・整形仕上げ一貫設備”の導入を欧州のエンジニアリングに問い合わせてきたので、「日本の合繊企業に照会をしてみては」と返事したところ、日本では軒並みプラント輸出を断ってきたとのこと。多分「いずれ中国へ直接工場進出するつもりなので、設備一式だけを売るわけに行かない」と、ある企業から返事をしてきたとのこと。「我々なら製造ノウハウ付きで、喜んで一系列でも数系列でも売るのだがなあ」と苦笑していた。これに関連して云えば、いずれ人工皮革(クラリーノとかエクセーヌ、欧州ではアルカンターラ名)も直接進出することだろう。中国では織布やニットクロスにポリウレタンなどをディッピング・ブラッシングした人造皮的なものはとっくにコピー生産している。「日本は付加価値のあるものは原反で輸出して、われわれに二次、三次加工させて再輸出させる。ただ工賃を稼ぐだけで終わってしまう。こんなことは、いつまでも続かないよ」と、中国の業者が不織布関連の小間で云って帰ったと小記者に教えてくれた。
−−異外といえば、、欧州製の丸編機に結構引合いがふえていると聞いた。これまで日本、台湾、中国、一部ドイツやイタリア製のジャージ系が主流と思っていたが、最近では片面パイルやジャガード、それに最近流行のスパンデックスコアヤーン使いの多口数・ハイゲージものの引合いがふえているとのこと。そういえば日本の機種別輸出統計を調べてみると、横編・丸編・経編などニット機械のほか、組紐機やトーションのような特殊機の中国向け輸出が、革新織機のそれに比較して、金額ではほぼ接近していることに気がついた。
(番外記) 昨年1年間で、日本円はUSドルに対して11%高くなっているのに対し、Euroは17%も切上がっている。EUの連中に聞くと、徐々にユーロ建てユーロ払いに切替えつつあるものの、中国側の大半はドル決済してくる。差損がでるので先物予約あるいは多少上積みして見積もりすると「高くて買えない」と値切ってくる。日本はどうしているのかと尋ねられたので「日本円建て円払いかドル決済で、割合は60%対40%ぐらいだろう。但し大型商談の場合は大抵が大手商社を通すので、リスクヘッジは商社が負う。販売手数料やシッパーチャージは取られるものの、安心して取引できる。彼等の販売力や資金力、信用力は中国どころか世界中に知られている」というと、「われわれにはそんな大きな商社はなく、直接リスクを負って売らねばならず、それも逐一、取引銀行と交渉してやってきた。業界団体で申請して政府の輪銀融資や損保で扱ってくれていたが、EU統合でほぼなくなった。日本や韓国のシステムがうらやましい」と。「商社に多少のマージンを取られるし、競争も激しいので単価を低く抑えることになるが、その代り複数のユーザーを適正なロットにまとめて一括発注してくれるので、機械メーカーとしては大いに助かるし営業経費も少なくてすむ」というと、目を丸くして「うちも日本の商社にたのもうかな」と冗談まじりにいったものの「現地の代理店が入っているのでそれも難しいかな」「代理店の営業マンはカタログを客に送るだけで機械の説明もできない連中が多い。それでいて出張費や食事代まで経費として請求してくる」と、現地側にまかせ切りにも限界があるうえ、先行きに不安があるような顔をして、しきりに首を振っていた。
繊維設備のバランス悪い、いずれ国産機で - 中国
−−上海展示会場は1ホール2,000平米程度のものを4ホール使っていたが、それでも入りきらず、中国メーカーの大半はホール裏に大型テントを張り、まことに環境の悪いところで主に紡績関連機器を出展していた。中に入ったとたんモヤに包まれた。空調もしているのだが、風綿とオイルミストの煙がまじってノドや眼が痛くなるほどのひどさ。駆け足で回って30分あまりでやっとテントから逃げてきたが、環境もさることながら展示機械にもびっくりした。以前のものと違って、デザインも塗装も格段によく見えたが、性能面で首をかしげざるを得ないものが大半。外国製のコピー物が多いのも特徴。ためしに値段を聞いてみたが、記者票を首からぶら下げていたのでニヤニヤして答えてくれなかった。行きかけると、香港からきたという貿易商社員が声をかけてきて、「西南アジアやベトナムに設備をリースで貸与し、糸や織物や縫製品などの代金からローン返済してもらう。単に機械を香港を中継に輸出しているだけではない」「こうすることで増設するときや他に商談がある時には、浮気せずにまず我々に相談してくる。新たにチャンスが出てくるというわけだ」と自慢げにしゃべってくれた。エジプトや南アジアにも中国製の紡機や織機を輸出したと云っていた。そこで改めて値段のことをたずねると「日本やEU製に比べて最初は30%ぐらい安い値を吹いてくるが、当方が真剣かつ適正ロットで交渉に入ると小キザミに5〜7%づつ下げてくる。その夜、商談を兼ねて一緒に食事をして、翌日改めて交渉すると大抵は半値前後になる」と笑っていた。日本製からみると、性能や生産性を無視するかぎり、機種によって異なるものの大体半値か、ものによっては3分の1、4分の1というのが相場のようだ。
−−いまひとつ台湾の部品メーカー(紡織や撚糸部品などを出品)との会話を紹介したい。このメーカー、というよりも下請けに作らせた、あるいは日本やEUから仕入れた部用品を販売する卸屋、ブローカーといった感じ。4年半前のパリITMAで、ささやかなショーケースに主にワインダの消耗部品(村田やシュラ、サビオなどの)やレピアヘッドやジェットノズル、合繊糸用のフィードローラまで並べてあり、現物以外でも種々の部品のリストをもっており、お客の問い合わせですぐさまインターネットで台湾からパリにサイズ・値段・在庫個数・納期などの返事が来るシステムになっていた。「中国での反応はどうか」と問うと、彼は「パリ展以降、中国からの引合いが急増して中国内数ヶ所に(青島・上海・広州など)連絡事務所を置いている。事務所といっても、その人の自宅のパソコンで営業活動をさせている」「最初に2〜3万元を彼らに仕入資金として貸与し、注文を取ってくれば、そのうちから代金を送金させる。そうすることで、真剣に客から売掛金を回収する。信用度によって枠を広げたり掛け売りもして、今では自分で資金調達をしたり人を雇ったりしてリスクを負うまでになってきた」「中国の客から注文がきても直取引はせず、現地の彼等に連絡して商談をまとめさせる。政治と商売は全く別で、お互い信頼関係を保つかぎり、今のところうまくいっている」と、にこやかに解説してくれた。余談だが、彼の奥さんと子供はニューヨークに住んでおり米国の市民権を得ているという。中国で得た情報や注文はいったん米国の自宅にインターネットで入力され、仕分けされて台湾の下請けに部品が手配される仕組みになっているという。中台間では何かとチェックが入るが中米間、米台間はまったくフリーで、しかも通信費もかえって安いという。ちなみに、例えば日本製機械の純正部品を日本のメーカーから調達する場合でも、中→台→日より中→米→台→日の方がスムーズかつ安あがりだと云っていた。(物流コストも同様)
−−いまひとつオヤッと思ったのは、例のテントの中でカードから練条、粗紡、リング精紡機など綿紡設備を展示していた地元の機械製造公司。よく見ると、夫々のプレートの製造社名が異なっている。そこで担当者に「どうしてか。なかには紡織企業のプレートが貼ってある。既設工場から解体して組立てたものか」とたずねた。彼等は英語がしゃべれないので、近くの小間から商社員らしき者を連れてきて通訳をしてもらった。(このあたりプレスのプレートをぶら下げている特権かもしれないが、対応はていねいだった)
その結果、なんと国営の紡績工場の技術者が図面を引き直して機械メーカーに作らせ(多分、外国製をモデルにそれぞれよいとこどりをしたと思われる)自社工場に導入する一方、生産コストを下げるのと同時に同業他社や、できればバイヤーを通じて輸出することで、より利益を得ようというわけ。出展社の機械メーカーも自社製は練条機など2機種、それも高性能とはほど遠いような代物。他社のものと併せて設備ラインで売り込もうというわけ。中にはライバルメーカーのものも含まれるなど、少しでも儲かればメンツは捨ててもよいといった、彼等の強かさには感心もし、少々うんざりもした。ちなみに、もしユーザーが希望すれば、例えば精紡機でいえば、ドラフトパート、スピンドルインサートはSKFでもNSKでも、リングはどこのものと指定されれば、ちゃんと取寄せて組込めると自慢げに語っていた。
もうひとつ付け加えると、「日本から中国現地進出工場、例えば紡績でいえばカネボウや日清紡、ニッケなどに売り込みに云ったことがあるか」と聞くと、「われわれは行ったことはないが、噂として聞いた話では、部用品の殆どを日本から輸入しており、中国や台湾、インド製などは絶対買わないらしい」と。(日本系の繊維工場はイラクに派遣される自衛隊と同様、すべて“自前完結型”なのか。いつか摩擦が起きないか心配だ)
<予告> 「上海展で逢った北京中央当局の繊維工業の調査担当官との対話・興味ある内容について」を連載中の”中国市場の行方=日本の繊機輸出”の関連記事として掲載予定。
以上
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