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 特別連載

2003.10〜11号

中国市場の行方

日本の繊維と設備機械−その実態を探る−(上)


 中国の“元”切上げ圧力をかけている米国、戸惑いながら同調しようとする日本と韓国、利害関係が錯綜するアセアン諸国。しかし日本の農業や繊維、家電など労働集約的業界はともかく、中国市場拡大をアテ込んだ自動車、重機、デジタル事務機や通信機器などは影響は少ないといわれる。
 そこで繊維機械の場合はどうか。生産の90%は輸出され、仕向地では40%、香港を入れると輸出額の46%に達する('02暦年度統計による)ものの、中国の繊維製品が世界中で伸び続けている限り、3〜5%程度の元切上げなら繊維機械にまったく影響せず、むしろ日欧米向け中高級品の生産に傾斜し、そのための高精度・自動設備へのスクラップ・ビルドに拍車がかかる。
 今回から設備の輸出・コピー・現地進出・部品調達・資本や技術供与など人間模様ならぬ「業界模様」について、その内幕も含めて“記者と編集者による対談形式”で綴ってみる。


 貿易摩擦のタネ「対中赤字」と「コピー」など

 編集部 今なぜ人民元切上げ圧力をかけているのか、日本ではピンとこない各産業界だが、農産物でさえ15〜20%をいきなりの切上げでない限り影響はない。それなのに、米国からスノー財務長官が日本を誘ってから中国へ、その足でAPEC財務相会議でアセアンにも同調を呼びかけるなど、精力的に駆け回っている。ここでも日本はイラク攻撃における英国の役割を演じさせられるのか心配だ。繊維製品の輸入は依然高止まりだが、少々の切上げで中国の競争力が低下するとは思えない。

 記 者 繊維関係では戦前から縁の深かったK社が上海市周辺に17もの工場(市中心から30km以内の生産工場は強制移転させられた)を持ち、日本からの資金や技術などのテコ入れもあって、中国の国営紡織が老朽設備と余剰従業員で軒並み赤字で工場閉鎖が続出しているのを横目に、日本からの他の大手中堅進出企業(直・間接投資とも)も日米という大消費市場向けに頑張っている。
 しかし稼いだ分を日本円や米ドルで本国に送金というわけにはいかない。為替管理規制が厳しく、現地で再投資するか外貨預金を余儀なくされることが多々あった。中国がWTOに加盟してから多少緩和されたものの、もし人民元が切上げしそうとなれば逆にドルを売って元で保有しようという動きが出てくる。
 日銀は年初からこれまで10兆円超の円売りドル買い介入を行ってきた。このドルは再び米国債を買って、間接的に米のイラク戦費をサポートしているというわけだ。しかもすでに自衛隊派遣さらにイラク復興支援という名目で多額の“奉賀帳”を回されることとなり、一方で各種保険料の引上げ、場合によっては消費税等の増税が、デフレ脱却を長引かせることになりかねない。そうなると中国からの輸入は元高と、同時に並行して円高ドル安が顕著となり、日米中の「デフレ・トライアングル」が形成されかねない。

 編 君の云わんとするのは、要するに「中国へは原材料や設備機械などの生産材は増加するが、日本の軽工業など加工産品輸入は減少する懸念がある」ということか。しかし先日発表された今年上半期(1〜6月)の日中間貿易は過去最高だよ。内訳は対中輸出257.57億ドル。輸入は346.85億ドルと約90億ドルの入超。その差の過半は日系企業による生産移管商品。例えば衣料品をはじめ家電、パソコンなど事務用品機器、靴やカバンなど日用雑貨委託品。だからといって原糸・衣料生産設備機械まで日本のメーカーが現地進出するところまでは、相当なリスクを抱えることになる。むしろ失敗例が多い。


繊維機械の企業進出、日欧で大きな違い

 記 2年前のOTEMASのすぐあとシンガポールでITMA−ASIA展があった。9.11の同時多発テロの1ヵ月後のアフガン爆撃が始まったばかりの時だった。その時サウラーグループのVolkmann(ダブルツイスタ)が中国上海南西の機械工業都市である無錫方面で現地生産する計画だと教えてくれた。そのご間もなく、サウラーが合繊機械の独Barmagを買収したと伝えられた。
 B社は93年にDTYのFK5型7型について中国・無錫の撚糸機メーカーに製造ライセンスを与え、主要部品装置を持ち込んでノックダウン形態でジョイントした。しかし2年後には98%まで国産化できたことで自主販売しはじめ、結局はB社とはケンカ別れ。94年の北京展ではFK7型のそっくりさんを堂々と中国の小間で出展していたので、B社担当者にいきさつを尋ねたところ「日本に対抗して現地生産しようとした計画が、ヤツらにまんまと利用されてしまった」と語っていた。
 ところがサウラー傘下に入って再び無錫で合弁による話が持ち上がり、新たにAKFなどグレードアップした機種も含めて新会社設立を目指したが、種々の条件が折り合わず、結局はB社独自でDTY組立工場を建設中だ。

 編 欧州から中国向けにコンプリートで輸出する、さらにアフターサービス、クレーム処理、部品調達などで割高になる。当然サービスも行き届かない。その点、日本は距離的にも断然に有利だ。そのうえ最近では、それほど精度を必要としない鋳鍛造部品などは中国で作らせて輸入、それを組み込んだマシンを再び中国や韓台アセアン諸国に輸出するといった日本メーカーが多い。

 記 大手繊維機械、例えば鋳物の使用量の多い織機のフレーム、合繊ワインダフレーム、中国製の精紡や撚糸機用のスピンドルやリングといったものまで輸入されている。ジェットルームの中国向けは生産の約65%に達しているが、AJLやWJLのノズルや変形リード、よこ入給糸装置など微妙なものはともかく、ヘルドやフレーム、ビームなどアクセサリー類の大半は現地側で間に合わせている。

 編 メンテパーツの大半は現地のコピーものと聞いた。自動車部品では日本でも半分近くが純正じゃないと云われている。まして途上国のみならず世界中に出回っている。繊維機械などと比べてスケールが違うよ。

 記 しかし輸出した機械や部用品メーカーにとっては、信用にかかわる大変な問題だよ。日本の機械じゃないが95年のミラノ展の際、伊のドローワインダメーカーから、ナイロンUDY太デニールの糸を間違いなく切り落とせる日本製のヤーンカッターを手配してくれと頼まれ、尾道のメーカー製を送った。2年後のOTEMASに伊メーカーのマネージャーがやってきて(展示ブースも出していた)すぐカッターメーカーを呼んでくれと云ったので、聞くと「クレームだ」と云う。メーカーと引き合わせて品物を見たとたん、メーカーの幹部は「これはウチのものじゃない」と云って、その場で解体したところ「この刻印は韓国でコピーしたものだ」と説明して納得させていた。その後、伊社で調査した結果を報告してきたが、なんとメキシコの原糸工場の購買係が現場従業員と組んで新品のカッターをはずして安い韓国製にスリ替え、評判の高い日本製をプレミアムをつけて他社に売って、その差額を山分けしていたというのだ。

 編 同じようなことを昔、韓国でもネシアでもあった話を思い出したよ。当然といったら悪いが、中国でも恐らく多発しているハズだ。日本の現地工場でもスペアパーツの在庫が一夜でロッカー荒らしのように消えていたと嘆いていた工場長が複数いた。氷山の一角と思う。

 記 いまは加工が難しいといわれる金型なんかも、家電向けはもちろん、最近は携帯電話や自動車用も中国で十分こなしている。昔、といってもほぼ10年前のことだが、折からの“ポリ長”と一般にいわれるポリエステル長繊維ブームで韓台が大増設に踏みきった。中国が糸を輸入して内外向けの布や製品の二次加工が活発になった。これを見た日本の合繊メーカーも当時、円高も手伝ってネシアやタイといった進出既存工場の大幅増設を行った。
 バブルが消えて数年を経た時で、鋳鍛造物や部品加工の協力工場は軒並み縮小したり賃金の高い熟練工を減らしたりでコスト面や納期で条件が合わず、ある大手機械が仕方なしに中国から入れることにした。国際調達部まで急遽組織して、円高を生かして欧州にまで安い電装品からセラミックガイドまでも探しに出掛けたりしていた。しかしチェックが行き届かず、結局は大損となった。納期遅れはもちろん、中国製シリンダは焼き込み不足や精度不足、鋳物フレームに砂が混入していたり巣が入っていたりで結局使い物にならず、あわててプレミアムで日本で調達した結果、合わせて数億円近い損失。保険と僅かな賠償を合わせてもやっと1割が戻ってきた程度。
 図面を出し、技術指導したからといって安心していると、とんでもないことになる。サンプルや最初の出荷はうまくいっても、ちょっと油断するとあわてるだけでなく損害を被ることになる。

 編 そういえば同じ頃、独Barmagがネシア向けに受注したDTY32台が安く叩かれたので、帳尻を合わせるため、フレームや部品を以前に技術供与していたロシアやインドのメーカーに作らせたところ、大半が寸法違いや鉄板の厚みが違ったりの不良品。あわてて独本国で作って空便で何回も運んだが、納期遅れなど信用を失ったうえ大変な損失を被ったという。当時並行して受注した中国でのポリ長プラントも安値のうえドル安マルク高で決算は大幅赤字。その結果B社は営業担当副社長はクビ、従業員約340人が職を失った。

  だからといってはなんだが、日本の大手M社は昨年夏、これまで中国・上海にあった販売サービスの現地法人に加え、新たに金属部品の加工、資材調達、いずれ繊維機械の現地組み立ても行う現地法人を設立し、NC工作機械などを入れて業務を開始したことも、種々これまでの他社の失敗例を踏まえて、いわば他山の石として現地生産に踏み切ったものだろう。今後の成否を待ちたい。



 次回は「コピー機の実態」と「機械現地生産の陥し穴」に掲載。