2006.8号

<TOPIC>

市場動向を検討・分析する


開発・生産・販売体制の抜本改革迫られる繊機業界

<第一部> 出荷額2,000億円割れ、対中依存体質から抜出す処方箋はあるか?

  昨'05年暦年(1〜12月)の繊維機械統計(生産・輸出入・受注推移等)ざっと眺めて、生産額が3年振りに再び2,000億円を割り込んだ。最大輸出市場の中国向けが例の反日感情と人民元切上げ、金融引締め、更に対米繊維製品輸出規制といった事象、そして合繊プラントの新増設の一時ストップなど全般的に停滞したことが、2,000億円割れの主原因とされた。そして今年上半期が経過した時点ではどうなのか。統計はまだまとまっていないが、昨年比では船積が上向いてきたようだ。
 思えば12年前の1993年のピーク時の生産額は3,300億に達したこともあるが、この時はポリ長ブームで韓台中の新増設、アセアン諸国での日本からの新更新投資が活発だったことも手伝った。しかしその数年後には超円高、続いて'97年のアジア金融危機に見舞われ、'99年の生産は1,500億円を割るに至っている。そのご低迷が続き、2,000億円を超えたのは2003年になってからだが、これも3年と続かず、昨'05年は再び大台を割ったということになる。その間、'03と'04年は欧米の景気上昇で衣料需要が好調だったことに合わせて中国が一段の設備拡張に走ったこと、日本からの海外投資が円安、金利安も手伝って活発だった結果、4年ぶりに2,000億円台に乗せたもの。ただ設備投資の増加と並行して逆に悪化が顕著に現れたのが「人件費・原油などエネルギーの高騰、それに労働環境整備(集塵・空調・給排水など)への投資」が重なったことで、生産コストを押上げる要因ともなって、その後の低迷に繋がったものと分析されている。


  これまでの経緯を眺める限り、およそ"3〜4年"の循環で設備投資が上下移動を繰返してきた"ことになる。そして目下は浅い鍋底の状態が北京オリンピックまで続くものとみられる。というのも、原油や人民元高の下にあって、繊維製品や製鉄やテレビ、洗濯機など一部の家電製品が生産拡大に抑制を余儀なくされたように(一方で、不動産や道路鉄道など公共投資、自動車、情報機器等は依然活発)業種によって跛行現象が目立ってきた。
 このことは日本でも特に2000年以降に見られる産業構造の変革によって生じていることだが、こと繊機工業においては、同じ機械業界の中でも、例えば工作機械・一般産業機・樹脂成型・土木建設それに精密機器等はバブル期以来の利益を計上しているのに対し、繊機のそれはひとり"カヤの外"の様相を呈している。中小メーカーはもとより、大手の一部が繊機から撤退して、当然ながら残存者利益が享受できるハズと思われているにも拘らず、売上も利益も伸びず、中には赤字で苦しんでいるメーカーさえある始末。一体何が原因なのか。
 もともと繊機は受注生産の業界であるにも拘らず、大量生産による原価コストのうえに成り立っている。それでいて部品点数が多く、かつ使用目的が糸種や番手や仕上がり製品に合致させるべく条件設定を行ったうえで機構変更・調整して組み上げていくことで機械という商品が生産・出荷されるといったアセンブリ工業である。同一仕様のものを大量受注すれば、もともと労働生産性が低いといわれてきた繊機メーカーであっても、ラインで流すことでなんとか利益を確保できる。
 しかし'90年代に入って内需の空洞化、輸出依存型産業となった今日、しかもその内容は中国を中心としたアジア市場とあっては、どうしても付加価値の低い、すなわち単価の低い製品が主流を占めざるを得ず、当然ながら儲けは薄く、下手をすれば出血受注(一方で飢餓輸出ともいわれる。これまでにも石油ショック、超円高時にもしばしば見受けられた)に陥りかねない。このような体制・体質は経産当局あるいは大手金融の調査機関からも指摘されてきたように、「繊維の紡編織製造業は完全に空洞化し、合繊もテキスタイルや産資用素材でも低付加製品向けは海外輸入物に代替され、高付加産資用あるいは新素材の開発と商品化に重点を移している」従って「これらの傾向を分析のうえ、対応した設備機械の設計開発が必要」とし、一方で「生き残りのためには、輸出も必須条件だが、出来れば例えば紡織染の一環プラントを技術指導と併せて一括受注する。あるいは複数のユーザーをまとめて採算ロットに達してから受注する、といった対応が望ましい」「プラントは製造メーカーが数社あるいは空調、加湿、集塵、送電・変圧など周辺装置を含めると数10社に及ぶこともある。その際のまとめ役として大手商社、金融機関を巻き込んだシンジケートを組む必要もでてこよう。欧州メーカー勢あるいは今後低価格を武器に海外輸出攻勢に出てくるであろう中国勢との三ツ卍商戦に勝ち残れるだけの体力と技術そして製造設備や人材(部品協力工場も含めて)を維持できるかどうかも、近々の課題となる」と、各機関ともこうしたポイントを挙げている。

  繊維・衣料製造業は衰退産業だといわれて久しい。わが国の繊維製品の年間消費量は'90年代の不況期を除いてあまり減っていない。売上総額ではバブル期のピークで約17.5兆円、そして景気回復してしてきたここ数年来では13〜14兆円でほぼ推移している。しかしこのうち輸入製品は日本側による現地生産及びOEMないしアウトソーシングものを含め全国消費の86%を占める(売上高では約70%)に至っている。それだけ内製品が高級付加商品への転換が進捗していることを物語っている。だがこの数字は、例えば食糧の国内自給率47%からみても、繊維製品のそれはあまりにも低過ぎはしないか。もっとも繊維機械は逆比例して、中国向けを中心に輸出約90%と輸入繊維よりウエートは高い。いわゆるブーメラン現象だと揶揄される所以である。
 当初は国内の編織など二次加工業界から中国やパキ、ネシアなどへの設備機械の輸出増勢に、ブーメランを恐れて苦情イヤ味を云っていたが、やがて大手素材や織布・染色・縫製といった大手中堅どころが、海外現地に資本と技術を投下して活発に進出しだしたことで、いわば"毒をもって毒を制する"事態が大きく広がった。過去を振り返れば、繊機業界においても戦後60年、4回もの大揺れの時期・転換期があった。こうした苦節を経て今日までに至ったが、その辺りの経緯を踏まえて第2部に移る。