2005.6号
繊維機械
統計から
韓台は中国に傾斜、印パ・トルコに省エネ機を
<過去12年の輸出額の推移について>
輸出総額は2,623.17億円で対前年比6.2%減。しかし前年の'03年はここ10年来のピークだったことを考えると、まずまずの高水準を保ったといえる。ただし、冷戦終結や湾岸戦争後に緊張緩和がもたらした経済回復(当時はバブル崩壊後の後遺症に悩まされていた時期)の途上にあった’92年に、折から中国が天安門事件で欧米から経済制裁を受けていたにも拘らず、日本はいち早く解除してODAを再開し、中国も外資受入れや輸入拡大策をとったこと、更に韓台両国がポリエスF設備の需要拡大を見越して大型投資を行ったこと、円高ドル安を背景に日本企業がアセアン諸国の繊維プラントに積極的テコ入れしたことと相まって、史上最高額(約4,700億円)を記録したこともある。
その後輸出額は対前年比で4〜10%の減少で推移したが、ドル高原油安が実現した'95〜'96年にかけ、中国やアセアン諸国、更に印パまでもが対米輸出拡大を狙って外資導入緩和策を打ち出し、日本も設備輸出の恩恵を受け、'97年には4年振りに3,500億円近くまで回復したが、その年の秋「アジア金融危機」が発生し(韓国で約300億ドルのIMF融資が行われた。うち130億ドルは日本からの間接預託)以降5〜6年間は2,000〜2,500億円と低迷した。これらの落ち込みを支えたのが中国向けであったことは周知のとおり。ただこれまで当欄で記載してきたように「中国の昨春来の金融引締め、秋の金利上げ、更に不動産を中心とした投資規制、繊維設備の過剰感(ポリ長プラントの輸入規制はその代表例)などから、今年は2,000億円割れも覚悟する必要」と推察した。
<仕向地市場の変化について>
輸出仕向地でダントツはもちろん中国、2位は香港だが、実質的には同一とみなしてよい。あわせると全輸出額のほぼ半数を占める。それまでは40%そこそこだったが、2年前から過半を占めるようになった。凋落著しいのは韓国と台湾。以前は常に上位5位までに顔を出していたが、今や5〜10位とランクを下げている。しかもこれら設備機械の約半数が、彼等の中国進出工場向けのもの。
これまで仕向地10位以内の常連だった対、ネシア、パキ、トルコ向けは多少の増減はあるものの予想以上にコンスタントに船積みされている。意外なのは米と伊向けで、上位10位以内に食い込み、韓台向けを上回る。米はニットと自動ワインダ、伊は横編機が突出している。このように仕向国によって、一機種またはごく数機種に集中していることが昨今特に顕著となっている。
情報通信の発達によって世界の繊維消費あるいは流行が数日数時間で地球を巡り、物流・小売業者がロットと柄などを決めメーカーに製品をオーダーする。例えば米や伊の場合、中国などに安いコストで供給依頼しようにも時間と品質等に問題ありと判断すれば、また多品種少量・高付加価値商品であれば、自分たちで設備を導入するかあるいは自国の専門ニッターにアウトソーシングさせるかする方が手っ取り早い。特にニット製品の場合はこの傾向が強く「先進消費国での製品生産供給が米・EU・極東といったブロック化が強まるにつれ、今後、この傾向が強くなるのではないか」というのが繊維や商社の担当者間で広まっている。すでに香港が中級普及品から高級品へと転換すべく手を打ってきている。香港経由の安い中国製品が出回るのも時間の問題かも知れない。
韓台両国向け(機種の大半は合繊関連のプラントやDTY、WJLなど)の落ち込みをどの国、どんな機種でカバーしていけるのか。インドは徐々に上向いてきており、'02年の11位(輸出額約74億円)'03年8位(同91億円)'04年5位(同106億円)と、円高EU高ドル安にもかかわらず漸増傾向にある。恐らくITシステムの構築下請けと、これら外地技術者の自国送金などで手持ち外貨が増えたこと、機械等の輸入関税引下げ、輸禁措置の緩和策が効いてきたことによるもの。しかし原油高によるエネルギー不足が懸念される。隣国パキもアフガン爆撃で寄与した見返りに借款放棄や無償供与などによって紡績などに輸入外貨枠が広がったことも大きい('02年6位116億円、4位136億円、3位182億円)しかし印パ両国とも昔からEUの機械メーカーとの結びつきが強く、新たに中国という強敵も出現し、いわば草刈場と化して"3人旅の1人貧乏"(前号記事を参照)となるかも知れない。
上位10ヶ国で、このところ安定した市場を保っているのがトルコ、タイ、ネシアの3カ国。常に年間平均100億円の出来高があり、タイ、ネシアは日本資本の、またトルコはEU資本による寄与率も高い。期待されていたメキシコやブラジルなど中南米向け、ウズベキスタンやエジプトなど綿産国向けは上位11〜20位の間に時々入ってくるが、これらの殆どがスポットオーダーによるもの。むしろEU内の英やスペイン、フランス向けが(年10〜20億円)ニット機を中心に平均して輸出されている。これらも恐らく前出の伊向け同様、現地での高級品生産・直出し方式が定着していることを立証している。
今後注目される市場は、アジアではベトナム、マレーシア。前者はまだ織布と縫製が中心だが、昨年に台湾の合繊最大の大手のナンヤが大型ポリ長生産工場(設備はTMT、DTYはバーマグ製)を立ち上げるなど、インフラと外資導入の法整備が進めば、マレー共々急拡大が期待できる。というのも、ベトナムの無煙炭、木材、サファイア原石、観光収入、米穀の輸出で、マレーもゴムや錫など基礎原材料が世界的に高騰しており、特に中国がこれら物資の手当てを強めていることから外貨の余裕が出てきた。両国とも失業者が増えつつあることから、労働集約産業の取り込みが急がれる。