2006.11号
CITME 北京展
いぜん中国と日欧の技術格差歴然、
欧メーカーの現地生産"二重国籍化"ふえる
開催期日はITMAの半分の5日間、その初日と次の2日間しか見て回ることができなかったが、それで十分目下の傾向なり需要動向を捉えることができた。それにつけても人人の波。しかし一つの小間、一台の機械に人だかりして熱心に説明を受けている風景をついぞ見かけなかったのはなぜなのか。少なくとも90年代後半の、この種の展示会で見られた熱気が感じられなくなったことも確か。私の目には「機械そのものを評価するよりも、国内の投資動向やどの業種(紡織編染や長短繊維など)が好調かなど、むしろ全般的な流れなどの情報収集に熱心だったのではと思われた。
個々の評価は避け、中国という巨大な市場で内外繊機メーカーがどう対応してきたか、今後どう展開していくか。各社・グループの製造・販売戦略の一端を当展示会で垣間見た感じがした。
EUメーカーの悩みの第一はユーロ高、現地生産すれば薄利多売に巻き込まれ、合弁は失敗例多い
外国館は日本、ドイツ・スイス、それにイタリア館。90年代以降に進捗した買収、合併、資本・販売集約などによるグループ化によって、例えばサウラーグループの本拠はスイスだが、機械や装置はドイツやフランスのメーカーのものが主力機だったり、中国館に伊マルゾーリの960錘建のリング精紡ロング台、それも一斉AD装置付で実演していたが、オペレーターはイタリア人が担当していたようだ。ブランドと製造技術をイタリアから持ち込んで、部品やフレームなど本体は中国内で、操作コントロール・ソフトは伊側が握ることで企業合弁ではなく、恐らく資本貸与とロイヤリティ料、あるいは販売の儲けの何%プラス金利上乗せという条件で提携しているのではと、コンペティターであるスイス・リーターの小間で「多分そうではないか」との観測で話をしてくれた。そこでサウラーグループの独チンザー(精紡機がメインのメーカー)にそのことをぶつけてみると、「ロング台を20数年前に初めて製作したのは当社だったが、いまやコスト面で全く引き合わない。別の中国館で昔のチンザー機をコピーしたロング台、ただしADはついていないが出品しているよ。参考のため見てきては。ただし目が腐らないようにサングラスをかけて見たほうがよいのでは」と笑っていた。「綿紡は米続いて日本、やがて西ヨーロッパから消えていくだろう。高級番手も含めて中印パキそれにトルコなどで集約されていくし、紡機そのものも繊維製品と同様に中国製で席巻されるだろう。当社は梳毛精紡機の売込みに拍車をかけたい。それにしても毛やアクリルの長繊維関連で日仏のOKKやシュルンベルジェの前紡機械ぐらいで、あとは中国製が少々と、いかにも淋しい。設備投資の伸び率から言っても長繊維の方がこのところ高いはずだがなあ」と。
チンザーは合繊フィラ糸の直紡式の発達で各種延伸機から撤退し、紡綿も同じグループのシュラフォルストのロータ空紡機との関係で綿精紡が縮小された経緯もあってか、私には多少のウラミ節かネタミにも聞こえたのだが、景気の変動や市場の変化、生産機種の選択等によって企業の命運が分かれることも、改めて再確認させられたものだ。それにしても、今後は中国では早々に簡単に作れないもの、コピーしてもグレードの差が大きいもの、いわば差別化高級機の開発が必須といわれながら、このところ遅々として進んでいない。その原因は日欧の主要メーカーが認めているように「繊機市場がアジア、とくに中印両国で世界需要の約4分の3近くを占め、繊維工業への外資導入も国内投資の約30%強にも一時期達していたことで、90年代後半当時の外国製の新鋭合理化設備が生産性あるいは品質向上に多大の貢献を果たしていたことが大きい」としながらも、「一方で、日欧米国内の繊維空洞化によって需要交代、企業のリストラあるいはダウンサイジング、さらにM&Aによる再編成などの事象が続出していたことも手伝って、機械の新規開発や操作コントロールなどソフト面や駆動周辺関連装置等の改良あるいは省エネ・作業性および風綿やホコリ等の環境面でも対応が一歩遅れてきたことは否めない」
スイス・リーターグループの販売の中国担当マネージャーに先行き見通しを聞くと「中国人民元を昨夏にごくわずか切り上げたが、それ以上にユーロやスイスフラン、英ポンドが割高となり欧州の連中は苦労しているよ。その点、日本円がドルや元に対して割安、しかも隣国で運賃などコスト面でも有利でうらやましいよ」「部品調達でも、我々は伊をはじめチェコ、ハンガリーからのものが多いが、当社の調べでは日本製機械の30%ときには60%も中国現地製を使っているとの報告が入っている。中国製に切り替えたいが、まだ信頼性に欠けると製造管理担当が首をかしげて採用にふみ切れずにいる。日本側はどうしているのか教えて欲しいほどだ」と逆質問を受けた。
そこで私は概略つぎのように答えておいた。「’87〜’91年にかけてバブル期に、需要急増と設備・人員不足で各メーカーはこぞって中国や台湾などに図面を持って駆け込み、当初は精度の低いものから次第にクオリティの高いものまで発注するようになった。しかし品質や精度チェックすると寸法違いや材質の劣るものなど歩留まりが悪く、納入先からクレームが多発した。そこで発注側メーカーは中国の下請け先から工員を日本に呼んで実地研修させ、習得したところで日本から中国に工作機や研磨設備さらには鋼材料まで持ち込み、さらに日本の技術者を現地に派遣して手取り足取り教え込んでやっとまともな部品を作れるようになった。ここまでに恐らく3〜5年かかっているのではないか」というと彼は「非常に参考になった。有難う。当社の首脳2人が明日来るので早速報告するよ。チェコや旧東独、ハンガリーの部品・アセンブリの下請け企業は古い工作設備を入れ替えろといっても、手慣れているからこれで十分だと効率が悪く故障が頻発する加工機を手離さない。工賃も結構高く、納期遅れは日常茶飯事だ。日本のアフターサービスも行き届いているというし、メンテパーツの供給取換えも早く評判はすごくよいと聞いている」「だからこそ忠告しておきたいことがある。当社が取引してきた中国のユーザーから聞いた話しだが、日本人はお人よしで、相見積もりで値引き交渉すると、すぐ応じてくれる。スペアパーツもサービスも価格として半値で提供している。余分に注文して残った分を正価の15%引き前後で他社に転売して差額を経営者が懐に入れるかワイロを使っていると教えてくれたよ」
さらにリーターグループとして中国市場をどう見ているかと問うたところ、彼は「綿紡関連は混打綿やカードといった前紡設備はちょっとしんどい。合繊ではナイロンやBCFプラントや嵩高糸のスチームセッター(仏スペルバ社)を売り込んでいるが、今のところパイロットかテスト用として数セット入れたが本格化は時間がかかりそう。ナイロン原料が高いうえ、日欧米先進国での工事カーペットを敷き詰める高級ホテルやオフィスビルも中国ではアクリルや不織布が依然主流。そこで当グループ入りした仏アセラン(仏ではアッシュラーと呼んでいる)のノンウーブンシステムプラントの売込みに力を入れている。サウラーグループ入りした独ディロ社もこの分野で頑張っている。不織布といえばスパンポンドもこれから期待できる分野だ。すでに独のフライスナーあるいは日本の東レやユニチカなどが数社が売り込まれているが、アセランのカーペットの裏張りとして薄地のスパンボンド布をボンディングして、ロールとしてでなく50センチ四方の工事カーペットとして製品を売り込んでいきたい。これからの中国市場は難しい場面も多くなる。日本は依然有利な立場だが、ライバルだコンペティターなどと云わずに、これから販売も技術も協力いや業務提携も含めて仲良くやっていきたいものだ」と締めくくった。
ちなみに、今回の北京展には産資用や合繊紡糸・巻取り装置などの出展が少なく、この関連では衣料向け加工機であるDTYの内外機がいやに目立った。ポピュラーな機械は競争が激しく、シェアを拡げるべくムリをしてでも出展する。しかし特殊機や特定の客を相手の機種、例えば前出のスパンボンドやタイヤコードやモノフィラ設備、さらに綿紡では高速紡出の村田のVortexエアジェットスピニングなどは導入に熱心で技術・資金力のあるカストマーと直接ネゴするといった販売戦略を取っているためと思われる。(以上がスイス繊機における2大グループの総合ブースで中国担当幹部との話のやりとりである。これだけで二日目の午前中かかった。彼等は口を揃えて、'08年7月のITMAアジア上海までに、市場に合った新機種をプロデュースし、いかにアプローチできるかに成否がかかっているとしている)。
AJLは内外製で花盛りだが準備工程装置の出品乏しい、
同様にダブルツイスタも多数あれど合糸ワインダ台湾製のみ
エアジェットルーム(AJL)では日本の2社(豊田と津田駒)欧州でピカニョールが唯一頑張って世界のシェアを分け合っていると思っていたが、中国製が4カ所で稼動させていた。さすがに1,000rpm以下、いや常用ではせいぜい600〜850rpmぐらいで並幅のものが大半。5〜6年前までは中国製のレピアルームで賑わっていたが、いつの間にやらAJLに取って代わっていたというわけだ。ウォータージェット(WJL)は久しぶりに豊田が出品していたが、話を聞くと「津田駒だけではありませんよ。うちも結構頑張っています」という意味合いからデモにふみ切ったようだ。
中国館の片隅に豊田産業という織機アクセサリを扱う材料店を見つけ、聞いてみると「うちは主に豊田ルームの部用品をアジア向けに輸出している。うち60%以上が中国向け」「いちばん多く出るのは開口カム装置関連と変形リード」という。リードは仕掛け番手によってピッチの異なる種々のものを揃えねばならないが、それでもAJLの中国向け輸出台数よりも異常に多いという。裏読みすれば、中国のAJLメーカーが自国の部品では精度その他で不安があるため、手を回して日本製のこれら部用品を取り込んでいるフシが大いに見え隠れするともいわれる。
手前味噌ながら、昨年初の当紙で、中国市場の動向について「天然繊維は労働集約・人件費の安い中国でこそなお拡大する。合繊とくにポリ長設備の急増で導入抑制策がとられたものの糸増産が続いており、いぜん綿糸やポリ長使いの織機やニット機の導入は持続するだろう」との予測記事を載せた。これまでのところ見込みどおりの需要で推移しているが、今回の北京展でもそれが裏付けられたかたち。編織機だけでなく合繊DTYが内外機合わせ年800台以上、綿・毛糸向けダブルツイスタも月間200〜250台も生産出荷されているという。これらいわば編織の準備前工程機械といえるものも好調だ。しかしそれにしても例えば織布準備機であるワーパーやサイジング(製経・糊付)さらにリーチングやタイングマシン(畦取・糸結び)そしてダブルツイスタの前工程のアセンブリワインダ(合糸)の出品がほとんど見かけなかったことはどういった理由なのだろうか。たまたま整経マス見本機を見かけるとそれが、日欧機のコピーだったり、合糸機は台湾製のものを中国の小間の奥でチラッと置いてあったりする。
準備工程の重要さはどんな製品であれ、関係者なら当然分かっているハズだ。例えばAJLでの生機の品質の良否の80%は準備ビーミングで決まるといわれる。加工糸使いのニットにしても、例えばDTYによる撚りムラやテンション制御によって糸染めムラが発生し、編地ロスにつながる。いまや大半の準備機もミニコン制御で稼動させているのでデータや仕分けもその場で判別可能だ。これら高性能設備で生みだされる高品質の布帛が生産されることで、初めて電子制御のプリンタで複雑な高級柄が捺染されるということになる。
最後に、機械の省力・省エネ化と騒音や空気清浄など工場環境が年々テーマとしてあげられてきたが、日欧の一部のメーカーのものにしか改良導入されていない。イタリア館内のある機械を見て「どの程度省エネ化できたか」と尋ねてみたら、「生産性を引き上げるため約10%の回転数を引き上げたら電力消費は20%近くアップした。それでいてフレームの強化、部品精度の向上などで機械の製造コストは15%近く増加した」と笑っていた。多給糸口の丸編機の小間での話である。
村田は今年の全社的テーマとして"省エネを中心としたエコロジー"を掲げて機械設備等の改良改善に取り組み、その成果としてダブルツイスタや各種ワインダの一段の省エネ、騒音の低減を図った機械を今回出品していたが、周囲の織機の稼動音に消されてウィスパーどころではないと苦笑していた。中国側として電力不足の折から、もちろん省エネ機を要求するものの、自国の機械には配慮がかけていた。いずれ海外の省エネ機をコピーしてすませようと思っているのか、目下の数々の出品機から省エネという目標は空虚にさえ思えた。彼等にはまず"駆動まわりの基礎技術"をみっちり習得してもらう必要がありそうだ。