2004.10号
CITME(China International Textile Machinery exhibition)
中国国際繊維機械展覧会
10月12〜16日
10月中旬の北京国際繊維機械展では、日本と欧州の大手グループの激突が中国という巨大市場で覇を競うことになりそうだ。世界的な金融緩和と米中やアジアNIESの景気浮上が日本のデフレ不況からの脱出に寄与したことも確かだろう。日本はまた為替レートが対ドル対ユーロで、これまで比較的有利だったことも手伝って(3年前の初のITMAアジア・シンガポールの展示会場で、欧州のメーカーから皮肉まじりに円安ユーロ高で日本にプラスアルファがある。まともに勝負したくないと嘆いていたものだ)これまで対中輸出でも順調な伸びを示してきた。その2年後の昨年暮れの上海展でも同じセリフが欧州勢から聞かされた。
さて北京展では、果たしてどんな会話が日欧関係者の間で交わされそうか。彼等はまだ日本円はユーロに比較して割安と思っているに違いない。しかし最大の関心事は@中国市場はまだ伸びるのか、それとも設備過剰と金融引締めで失速するのか、あるいは足踏み状態でとどまるのか A人民元切上げ問題と原油高、それに米大統領選挙と金利引上げ等もからんで(為替や決済・貿易のひずみがどこまで是正されるか)今後どう展開していくのか−−これらの方向性あるいは現地情報を少しでもキャッチしておこうとする狙いもあって、欧州各国メーカーは首脳あるいは重要幹部を派遣してくるだろうし、一方で在北京大使館を動かして、現地への資金投下も含め、情報収集と市場分析を第一義に考えていることだろう。北京展への機械出品は、小間スペースはいわばアンテナショップであり、機械そのものはマネキンといえるかも知れない。そして着せている服はトラディショナルなものからニューファッションまで、さらにIT・ソフトというアクセサリーを頭に飾るか、首に掛けるのか、胸につけるか、腰をベルトで締めるのかベルトなしかなど、メーカーによって狙いと思惑はそれこそ"会社それぞれ、人それぞれ"だろう。
<第1部>
投資沈静化で欧州勢がなぜ力を入れるか 日本とスイスGとの対決濃く
中国の今後の設備投資の傾向とその内容を探る"機会展"か
7月下旬、Saurerグループから一枚のCDが郵送されてきた。これまでにも1〜2ヵ月に1回、メディア向けに送られてき、機械や営業活動が主要な内容だったが、今回それは違っていた。
北京展までまだ2ヵ月半はあろうかというのに、早々とグループ各社の出品機内容と1,000平方米という展示スペースを大きくヘッドカバーに掲げ、CDの内容には常連のSchlafhorstのほか、Zinserの新型精紡機、傘下に入ったBarmagやNeumag(合繊機械)の改良新型機の紹介(VolkmannやAllma撚糸機は無錫(ウーシ)での現地生産のためか、別小間で展示のためかCDには紹介されていない)も入っていた。
北京展は各ホールごとにドイツ、スイス、イタリア、フランス、スペイン、それに韓国と台湾と香港、インドなどアジア集合ホール、日本は1ホールをこれまでほぼ埋めてきたが、今回は空スペースが3分の1にも達し、そこに欧州(チェコ、ポーランド、ブルガリアなども含め)の中小メーカーで埋めるようである。あとは中国勢が2〜3ホールを合繊・紡績・撚糸・織機・ニット・染色仕上および電装や部用品まで広範囲にわたっているという。
日本は大手中小メーカーの企業数が90年代から減り続け、専業メーカーはごく少数、バブル期から見て3社に1社が撤退か廃業した。中国ブームで息を吹き返すかと思われたが、どうにか波に乗りきれたのは豊田、ツダコマ、村田、それにポリ長ブームに乗ったTMTといった大手ばかり。しかしその内容は単価引下げ要求が厳しい対中商売とあって「薄利多売」「利益なき繁忙」といった結果を残したところが多かったのではないか。前年の決算を分析したところ、利益効果の大半は人員削減などリストラと円安(昨年平均で対ドル117から119円)のお陰といったところか。しかしリストラ効果が薄れ中国の設備投資が金融総量規制と相まってほぼ一巡した結果、中国にあまりにも傾斜してきた。例えばジェットルームや染色仕上、撚糸、仮撚機、一部ニット機、組紐機などは、欧韓台の現地生産や安い中国製が急増したこともあって、昨年秋ごろから引合いは減り、ましてや成約はほぼ半減した。そのため例えばツダコマなどは前期決算は17億円の黒字から今11月期予想は5.5億円の赤字となりそう。いかに中国の急変が周辺諸国や輸出企業に響くかの例だが、これらのショックを横目でにらみながら、恐らく欧州勢は中国の経済・金融などマクロ政策の現状あるいは将来の情勢判断と市場分析、製造と輸出展開のあり方を見極めようとしている姿勢がうかがえる。
前出のSaurerグループの大規模出展は、昨年のITMAバーミンガムに出展申込みをしながら急遽キャンセルして目を遅ればせながらアジアに向けてきたということなのだろう。同様に豊田、ツダコマなども出展取下げ、SARS騒ぎで半年遅れた上海展に振向けたのも、同様の理由からだと思われた。
そのほか欧州の大手グループRieterの動向も気にかかる。前出のSaurerが織機やレース機の儲けを核にして主にドイツの紡績・合繊関連機械メーカーを金融を通じて傘下に治めていったのに対し、R社はそれ以前からドイツの紡機メーカー、続いて英ScraggのDTY、3年前にはフランスICBTグループを買収し、(産資用撚糸機やDTY、不織布関連を残して、レピアルームや染色仕上やカバーリング機などを排除している)本業の紡績設備の大半は買収した独Ingolshtadtや空紡機はチェコの旧Investaで現地生産するなど国境を越えてのドラスチックな手法が目につく。それらのほかStaubliがUsterや仏Verdor、ルームアクセサリ関連など次々とグループ化し、またHeberlienやUsterが競合中小メーカーをテークオーバーし、試験・計測などやセンシング機器や糸加工装置も含めて(ブランドはそのまま使用)2大グループ化しつつある。そのほかSulzer Textileも、かつてはAJL、レピアのRuetiを買収、それ以前に独の丸編機メーカーを傘下に、そして数年前からイタリアの丸編機と併せてニット機の本丸をミラノに置いている。
こう見えてくると、スイスの繊維機械3大グループ(日本ではグループとか系列といっているが、独ではコンツェルン、仏や伊、スペインなどラテン系の中小企業では、妬みや皮肉を込めて繊機マフィアと陰で言っている)が最近盛んに言われているBRICsの経済成長に狙いをつけ、まず中国、続いてインド、ロシア、ブラジル、それにパキスタンやメキシコ、南ア、マレーシア、ベトナム、そして米南部地域の繊維産業の復活(もし民主党のケリーが当選すれば、自動車や石油産業界にメスを入れ、対中貿易赤字是正策として南部の棉産地や繊維産業の共和票を取込む優遇措置を打ち出すだろう)などに注力、EUに加盟していないスイスや欧州の繊維流通業者≪欧州ではユダヤ系の社長が多い。トルコなど中東、アフリカ、東欧との繊維物流の30〜40%は彼等が握っている≫などが自分たちのチャンネルを駆使して、独自の情報網を持ち、中国でも香港の商社と組んで≪ここもユダヤ系英国人の経営者が北京や上海、地元の広東省で活躍≫内陸部にも手を拡げつつある。
スイスの大手メーカーが情報をこれらの流通業者から多分に得ていることは確かなようだ。日本の大手中小機械メーカーも、直接間接的に大手総合や専門商社との関係を持つところが大半。しかし商社の機構は機械部門と繊維原料や製品取扱いが官僚機構と同様にタテ割りになっており(米も例えば国務省と国防省、CIAとFBIで情報が共有できなかった)ここの情報交換を出来ないでいる。欧州の大手機械は直接売り込むことが多いが、何割かは流通商社と組んで、あるいは繊維業者から商談を持込むことも結構あると聞いた。
こう見てくると、中国市場のみならず印パなど西南アやメキシコ、ブラジル、ベトナム、トルコ、タイ、ウズベキスタンなど中央アジアといった、いわゆる繊維NIES(アジアNIESに準じて名付けた)で、先のスイスのいわゆる繊機マフィアと日本勢がモロにぶつかることが多くなってくるだろう。商社員に頼る日本側、流通の協力で直接交渉する欧州特にスイス勢との激突が、いたるところ見られるかも知れない。もちろん納期・値段・性能・AS・決済条件などが成約の重要なファクターだが、それ以外にも強力なコネとインサイド情報、例えば現地の金融や諸官庁とのつながりなども新興国においては(中国も含めて)収集と分析が特に大事なことといえる。
日本はアジアでの実績、地理的優位、対比価格などで欧州を一部特殊機械を除いて凌駕してきた。彼等はこのことを十分に承知したうえでアジアに力を入れる理由はなぜか。もちろん地元EUや東欧、これまでの北米市場の需要不振もさることながら、アジア市場がまだ成長することを予見しているからなのだろう。とくに中印両国に絞っていえば、いずれ現地生産(一部で実施済み。インドではRieter、SKF、Scragg、RPR、Cross
Roll、それに豊田などが現地有力企業と組んで進出生産したが、国産化のメドが立った途端安価な手抜き製品を独自で作り、所轄役所と組んでパートナーを追出したこともあった)に改めて乗り出そうとの戦略があってのことと思われる。
中国はWTOからの勧告もあって、近々にも外資100%の生産工場設立を認める方針といわれ、しかも製作した機械の過半台数を国内で販売することが可能となる。恐らくこうした情報を得たからこそ、欧州メーカーが勢い込んでいるのだろう。先に現地進出しているBarmagのDTY、Volkmannのツイスタの担当者に言わせると「現地周辺の部品下請工場では、図面どおりの精度を出せない。仕方なく鋳鍛造品を荒削りさせたものを本国から持込んだ仕上用のNC工作機械で現地採用の作業員にレクチャーしている始末だ。それでも例えばDTYでいえばディスク・スピンドルユニットや主要な電装装置やベアリングなど軸受け等は少々高くついても独の工場に頼らざるをえない。通関をわざと後回しにされ、搬入が相当遅れたこともしばしば。ワイロを出せと云わんばかりで、あげくに中国製ではなぜダメなのかと嫌がらせのような対応をされ頭にきたこともしばしば。日本も中国で部品調達をしているようだが、もし現地生産および全機国内販売を目指すなら、電装・軸受など駆動部は輸入し、あとは工作機械を持込んで自工場か下請けに貸与してチェックしながら調達することをおすすめするよ。その時は作業工程をレクチャーできる要員を送り込んだうえ、まずしっかりした加工工場を見つけることだ。それでもほぼ満足できる部品が歩留まりよく流れてくるまで3〜6ヵ月はかかった」また「10年余り前に、インドネシアでDTY30数台の受注を得たが、本国製では値段が合わないので、仕方なく先に技術貸与していたインド(ムンバイ)とロシア(サンクトペテルブルグ)から寄せ集めた部品を現地ネシアの借りた工場で組み立てようとしたところ、寸法が合わなかったり荒削りのままだったりで全く使い物にならなかった。結局独本社に連絡して急遽必要部品をカキ集めて空輸するハメになったうえ、納期は遅れ、儲かるどころか大きな赤字が生じた。それより各国におけるお客への信頼度を低下させたダメージが大きかった」
DTY急増中の中国市場で村田に遅れをとり、長年ユーザーに顔が知られ腕利きの営業担当の副社長が退社に追い込まれている。その少し前に中国に技術貸与し、主要部品を欧州や台湾から供給している現地パートナーとの仲が悪くなり、結局は同じ無錫の工業団地に独自でDTYの製作を始めた。4年目に入っているが、出荷台数は別れた供与先に比べ半分程度にとどまっている。
以上、長々と記述した話の出処は、リストラでリタイアを余儀なくされた元営業マン、B社に納品している独やスイスのセンサーや部品メーカー、コンペティターである伊メーカーからITMAのほか各地の会場で聞いてきたもの。日本の企業も大手中小を問わず、30年余り以前からアジアはもとより欧米、ブラジル、もちろん韓台へも進出してきたが、中国へのそれはせいぜい10数年前から。中小メーカーが甘い幻想を抱いて進出したものの数年で撤退あるいは倒産の憂き目にあったところを数多く見てきた。
欧州のメーカーも例えば前出のB社はジョイン先の選定で、Saurerグループ下に入る前のSchlafhorstも上海で自動ワインダのノックダウン事業も挫折したし、当時は伊のレピアルームや丸編や横編機、それによく知られている日産エアやウォータージェットルームの瀋陽(シェンヤン)事業も豊田への譲渡とともに現地に置き土産してきた。では認可されれば100%独自の進出なら成功するかといえば、機種にもよるが、必ずしも見通しは明るくない。商社や代理店を通しても販売や代金回収に膨大な資金と人材育成に時間がかかる。ASや消耗品の配備もある。日本は確かに1500年前から交流があり民族性や華僑も含めて商売のやり方は頭で理解していても、政治・経済・金融すべてにおいてグローバル・スタンダードまでにはほど遠いうえ(日本も欧米に比しギャップが数多く残存する)第1に法治より人治が優先されるお国柄。
スイスはその点、EUにも入らず金融にも強い。早くから多国籍化して進出・販売のノウハウ、情報収集・分析力に優れている。日本側がこれに対抗するには技術・コスト・サービス、それに何より信頼と地政学的優位性を武器にすることが最大要件だろう。
ご了承事項−−本編は北京展以降、これまで以上に日本と欧州メーカーとの市場争奪戦が激しくなる一方、ユーザーの需要動向(とくに中国では浮沈のサイクルが短い)の見極めが難しい。それだけ、今後どんな機械の需要拡大が見込めるのか、あるいは現地生産でクリアできるのか−−などの判断材料として、過去の日欧メーカーの海外進出の失敗例あるいは思惑はずれ等の(他山の石として)主な例をあげたもの。他意のないことをご了解ください。
<第2部>
今後の焦点は「シンプル機能」「操作性」「保守容易」そして「省エネ機」
紡績・編織機にみる中国需要家の意識変化、合繊は採算規模追求
日中国交正常化30周年の2003年、記念式典に小泉首相の代理として橋本元首相が北京に出向いた。89年の"天安門事件"があった後もODAなど経済協力資金を供与してきた。80年代に入ってから繊維機械の対中輸出は結構あった。ミシン、半自動横編機、肌着用フライス丸編機、それにレピア織機(石川は一時月々80〜100台出荷)梳毛用紡績機(カード、練条、ボビナ、梳紡機などで、OKKや不二精工など)あたりが日本からの主力機械だった。
合繊関連では軍需用、例えば、ナイロンタイヤコードやテント、落下傘向けの紡糸プラントを欧州から導入したのが最初。衣料用は原糸(フィラメントおよびワタ)の大半は日台韓タイのほか、欧米からも国際入札で輸入していた。この原糸原綿の加工設備が絶対不足だったため、中国当局は香港や台湾の資本や人材をつぎ込ませ、設備は主に日本製を導入させて呼び水とした。次に東レや帝人に加え北陸大手の系列の機屋、染色仕上げまで一貫工程による工程管理システムの導入認可に踏み切ったことが地方当局や関係国営企業にインパクトを与え、かつ大きな評価を得た。この時期、日本から本格的合繊プラントをターンキー方式で輸出したのが東レの青島(チンタオ)プロジェクトだった。
その間も、欧米からは続々とプラント輸出あるいは合弁または直接投資による進出が始まっていたが、欧米の販売形態は日本と異なり、設備機械のハード部門は機械メーカー、原糸玉揚げから出荷までは搬送・物流システム、モノマー樹脂からエクスツルーダ、インクジェクション工程を経て糸を紡出するスピニング紡糸技術、いわゆるスピニングといったソフト部門はまったく別の企業で、それらを統括して設計施工そして立ち上げまでを実施するのは、これまた専門のエンジニアリング会社というわけ。責任分担といえば聞こえは良いが、もし重大なトラブルが発生すると分担各社で責任をなすり合いすることもしばしば。しかも改修保守費用や出張費は一般相場より割高な請求を平気で請求してくるという。
日本の場合は東レなり帝人や旭化成、三菱レ、東洋紡といった大手が設備のハードからソフトまで自社グループ・系列化しており、これまで韓台へは単に業務提携・技術供与のみならず、設備からエンジニアリングにいたるまで自社グループをあげて操業に至るまで面倒を見てきたものだ。その間にも、タイやネシアなどへの工場進出も当然ながら傘下のエンジニアリング企業が完成までの責任を負ってきた。最近ではテキスタイルやインテリアだけでなく、例えばタイヤコードやフィルムや不織布など産資用の海外進出が増えてきている。したがって中国向けプラント輸出においても、地理的優位性があるだけでなく、価格・ソフト・部品供与・ASなどすべてにおいて絶対的有利な条件を備えている。ましてや日本ではこれまで競ってきた大手3社が合弁一本化してTMT(東レエンジ、帝人製機、村田機械)を発足させたことで、合繊プラントからテクスチャー機まで責任をもって供給できる一貫性が、顧客に安心感をもたらすプラスアルファの効果も大きい。しかしてTMTは合併2年にして繊維機械の売上高は村田機械(413億円)についで第2位(約370億円)となった。なお欧州大手のBarmagは昨年度で約230億円(中国現地生産のDTYおよびプラント部品を含む)だった。
(注)米国某リサーチ会社の調査報告によれば−−各種機械(工作・産業・一般機械)のユーザーが感じたメンテサービスの満足度は、日本を世界で第2位にあげている。
第1位はスウェーデン、3位はスイス、4位は旧西ドイツとなっている。
機械が稼動しているかぎりメンテは必然。しかしトラブルの90%はユーザー側で、マニュアルに添って簡単に簡単に回復させられる。とはいえトラブルは必ずといってよいほど発生する。同リサーチ会社では、途上国または初めて機械やプラントを導入するカストマーには、できるだけ「メンテ・フリーのシンプル機能のものに設計変更することも必要」と付記している。
北京展での日欧各社の出展機種とその内容は恐らく在来機のメカを踏襲しながらも、マイナーチェンジして稼動コントロールまたは操作性の容易化を図る目的で、マイコン制御によるワンタッチ方式が主流となることだろう。中国側が求めたのは、初期段階では先端技術を採り入れた高性能機だった。しかし高生産性を追うだけのユーザーが高性能機を現場作業員に使いこなさせることにムリがあった。導入前には技術者を機械メーカーに派遣して研修を受けさせるものの、操作やメンテの仕方を修得するだけで、トラブルの原因や補正の仕方まで教えるには研修期間が短く、くどくど記載したマニュアル書類を渡して「宿舎に帰って就寝前に読んでおくように」ですませているのが大半。
輸出したメーカーの今ひとつの悩みは、客先が"賞味期限切れ"のパーツを、一応稼動しているからとして取り換えてくれないこと。担当者がユーザーにそのことを連絡しても「予算が下りない」「この前に定期点検をしたときはOKだったので、当分は大丈夫だと思う」あげくに「このところ糸切れ率が上昇している。できるだけ早くチェックしにきて欲しい。ただしこれはサービスで、どうしても部品の取換えが必要なら、部品の代金だけを払う」といった調子で、なんともやりきれない対応にガッカリしたと嘆くことしきり。「保守・保安の要員が決められた点検をサボっていることが多い。トラブルの原因で一番多いのは定期的に注油していなかったこと、二番目が機械の掃除で糸やワタがからまっているのに取り除かない。三番目が消耗部品の不交換」という。「でもいちばん悩ましいのは、高価な高性能機だからと、生産を増やすため限界高速でフル稼働させる。それでいて保守はずさんなうえ部品の消耗を早めている。ワタなどの原料や素材に粗悪品を安いからといって採用し、かつ前工程もいいかげんですませ、葉カスの混入や原料にバラツキがあることが分かっていながら、その日その日の生産ノルマを気にして平気で見過ごすことが当たり前となっていた」
80年代に海外機を導入したのはもちろん国営工場。間もなく香港資本(当時はまだ英租界)が隣接地の広東省で、また台湾も対岸の福建省福州近郊に、当時急成長しつつあった合繊織物を安い労働力を狙って工場を建て、そこに主にDTYやWJLを持込んで賃加工させ(原糸は台湾から輸入)、製品は欧米や東南ア、中東やアフリカへと輸出しだした。(日本で騒がれた安いタオルやおしぼりの出回りはこの頃である)
天安門事件後は一時足ぶみしたが、やがて老朽設備と過剰人員を抱えて赤字タレ流しの国営企業に代って台頭してきたのが私企業(郷鎮)で、まず縫製、そして比較的開業が容易なニット、続いて織布へと続いた。間もなく世界に"ポリ長ブーム"が拡がった。まず韓台が大型のプラントを次々と増設した。もちろん巨大市場となる中国向けを狙ってのことである。さらに日本へも安値攻勢をかけてきた。アセアン諸国もこれに続き、マレーシアや米南部に台湾資本で大型プロジェクトを立ち上げ、東レや帝人もネシアやタイの既進出工場の拡大に走ったが、やがて97年のアジア通貨危機に見舞われ、影響の大きかった韓国では合繊企業(ほとんどが財閥グループ)の倒産や工場閉鎖、そして統合集約されて今日に至っている。今はピーク時の35%が削減された。
金融危機の影響をほとんど受けなかった中国は、自前の原糸生産拡張路線をとり、ここ5年間の伸び率は平均13%、昨年は対前年比で18.3%増の年産564万トンに達し、ポリ長の世界シェアは36.6%とほぼ限界にまできた。それ故か、昨秋から徐々に金融引締めによる設備投資を制限し、今年に入って既契約分に限って導入を認めるのみにまで落ち込んだ。しかし既設のプラントによる原糸の生産が続くかぎり、編織染設備の新増設や更新が必要で、この限りではまた綿毛紡の設備更新も続くものとみられる。ただし金融調整と原油高が成長の足を引っ張ること必至。
さて設備投資の中味だが、これまで量的拡大路線を続けてきたものが、これからは"上か中級機か""高生産機か品質重視か"の時代に入ってくる。そして"マニュアルかオートか"さらに「省エネ化」がこれからの注目点。急成長で工場稼動やエアコンなどでここ数年来、電力不足が伝えられたが、国民の所得が上昇するにつれ、電気料金も引き上げられる。新しく建設中の火力や原子力発電(現在14基を増設中、あと15年で約27基の新設計画)の償却負担が肩にかかってくる。
村田は北京展に電力消費がこれまでタンゼンシャルベルト駆動に比べて20〜30%レスといわれる「単錘駆動モータによるスパン糸用ダブルツイスタ」の出品を予定している。ベルトとワーブあるいはプーリとの摩擦による電力消費ロスが生じない分が省エネとなり、ベルト走行時に発生する騒音もなくなることで作業環境も向上するとしている。従って、この単錘駆動モータ(Individual
Drive Motor)をダブルツイスタだけでなく、例えばリング精紡の新台に採用('87年のITMAパリ展にSKFが精紡機に、スイスBBCがカバーリング機用としてテスト出展)するか、既設台にも比較的容易に取り付け改造も可能で、その際ギアボックスが取りはずされ、据え付け面積も小さくなる。
精紡といえばSchla社とRieterチェコのロータ空紡機と村田のMVSエアジェットスピニング(結束紡)のどちらに軍配が上るのだろうか。中国でどちらのタイプもコピーもので製作されたが、トラブル続きで難渋。両タイプそれぞれ方式が異なるが、どちらもオープンエンド糸。生産量からみたkg当りの電力消費はAJSの方がずっと省エネになることだけは間違いない。中国でOE機の伸びが期待できるのかどうかは、この北京展が分水嶺。
これからの中国の繊維設備の導入傾向としておよそ次のように捉えてよいのではないか。本編のタイトルにあるように−−(1)シンプルなメカで故障が少なく、かつ高速機 (2)仕掛品の転換準備が容易で、かつ操作性の良い機械 (3)トラブル箇所が簡単に発見でき、すぐ補正できるもの。すなわち保守点検が容易なもの (4)従来型ながら高性能に発展させたもの、あるいは同一機種でも差別化されたもの。例えば織機でいえば、旧EUではレピアかスルザ−機で差別化付加価値商品を、旧東欧やトルコあたりではAJLやWJLで高生産・低価格ものが主流となっている。
中国内では、いまは混沌としているが、例えばニットでいえばメリヤス肌着向けは和歌山、横編は新潟や山形で、経編みは福井など、織物では合繊は北陸、ジーンズや作業服は岡山や広島、ギンガムは西脇、ウールは愛知や三重、着尺は京都や伊勢崎、タオルは今治と泉南地区といったすみ分けがほぼでき上っている。こうした分野別の産地もいずれ中国内のインフラや物流システムの整備構築ができれば、恐らく日本のような生産分野のすみ分け産地、それも川上から川中を経て染色・縫製までの巨大集合産地に変貌していくことになるかも知れない。
陶器や磁器では景徳鎮が有名だが、ロクロや素焼き、染付け釜入れなどすべて分業化の産物。国内には80ヵ所以上の有名産地があるが、それぞれ土地や形や模様、用途もすべてが産地の特色を生かして需要を世界に拡げている。他方、自転車の産地で有名な天津地区(全体の60%、約5,000万台を出荷)でも、トヨタが天津汽車公司と合弁進出が決まったとたん、業種転換で自動車の部品作りに参画する計画を発表し、自転車部品の生産の3分の1以上を失業者の多い東北地方や内陸部へ加工機械を移転させる準備をしているという。開発や近代化が進展する過程で、多少の浮沈みはあるものの、繊維製品の巨大産地が急激な落ち込みがないかぎり、設備機械の近代化・合理化投資も継続していくことだろう。なにぶん中国はここ5〜10年間のGDPを毎年7%以上を維持していかねば国民の生活水準を保てないお国の内情だからである。
Spot NEWS
パキスタンが紡績設備の特別枠で約40万錘の輸入認可
パキスタン当局は紡績業界からの要請で、先頃3年ぶりに約40万錘の綿紡プラントの特別枠の輸入認可実施を決めた。低関税率と外貨割当が当局によって割り振られたことから、日欧の機械メーカーに引合いが寄せられた結果、全体の70%を豊田グループを中心に日本側が過半を占めた。欧州勢ではスイス、イタリア、スペインなどで、設備の内訳では前紡工程は欧側がやや強く、粗紡以降ワインダなど後半分野は日本勢で大半を占めた。
パキは核やミサイルの実験によって経済協力資金が停止状態になっていたが、9.11後のアフガン攻撃に協力を表明したことで、主に日米の借款供与のうち一部を無償に、残り分は返済期限を延長、さらにODAなどの資金供与を再開したこと、国内混乱で難民や失業者への対応を労働集約の代表的産業である繊維、しかも輸出産業でもあることから、外務省やジェトロがパキ側に話を持込んだのではないかというのが消息筋の見方。
韓HUVISのPEワタ中国現地生産始まる(日産600トン)
韓国の鮮京合繊と三養社の合弁会社(Huvisは昨年来、中国四川省(シチュアン地区)にポリエスわたの生産工場(日産600トン)の建設をすすめてきたが、8月から順次生産出荷を始めた。四川での外資系工場では最大規模といわれ、生産をされたわたの大半は上海や広東省の紡績に鉄道輸送され、糸や布にされて韓や米、中東向けへの輸出を狙っているとしている。
WTO繊維輸入規制撤廃で中国の攻勢に日米欧は憂慮
WTOがこれまで例外的に認めてきた繊維輸入に対する国別の数量規制が、来2005年から撤廃され完全自由化される。中国やインドは今後さらに輸出攻勢に出てくるとみて、米国はもとより日欧でも対策に苦慮している。
日本は逆に中国にコーマ糸などの高級指向の現地工場進出で、日欧の高品質あるいは流行に添った生産の増強を検討中で、例えばウールの日毛や綿紡織の日清紡などブランドに強いところの現地工場では新増設あるいは一段の品質向上を目指すという。
一方の旗頭であるインドの繊維の主な輸出先は米、アフリカそしてEUで過半数を占める。中国との競争が一段と激しくなるとみて、量より質へ脱皮すべく設備の近代化をめざしてくる。中国とは労働コストで約15%高とされるギャップがあるが(紡績関係者によると、バングラでの工場進出でコスト引き下げ可能だという)製品輸出価格はせいぜい平均で5%弱だとしている。米も対中東対中国政策上、インド洋の防衛ライン強化に努めているが、この一環として米は日本と組んで経済援助資金を増やそうとしている。インドもこれに応えて、機械や資材など工業品目の関税大幅引き下げを実施してきた。今のところ目立った効果は出ていないが、外資系の工場進出や投資に対する優遇措置等も、経済通の首相が誕生したことから近々にも振興策が打ち出されよう。
TMT、PEとNY共用のDTYを開発、目下ランニングテスト中
TMTは3年前のOTEMASに、東レエンジと村田機械で共同開発のDTYをそれぞれの小間で出展したが、その後帝人製機TMが加わったTMTとして、新たにフリクションディスクによる新型DTYの試作(48錘台)テスト操業に入っている。
新DTY機はポリエス向けでは2段ヒータ、ナイロン向けは一段ヒータで加工糸生産されるが、フレーム本体は共用可能なもので、村田の在来の33H型と併せて3機種共通のフレームでコストダウンをはかることも狙っている。ヒータはPE、NYとも改良型ダウサム方式のもので、今回は高温電熱ヒータは採用されない。またフリクションディスクはPEが硬質ポリウレタン、NYはプラズマコートしたセラミックディスクを用いている。ドッファ機構は村田のワゴンタイプと帝人製機の各錘任意玉揚げ方式のどちらかをオプションで取り付け供与できるよう、さらに開発を進めている。また加工糸速はPE75dで1,200、NY70dで1,500m/minの常用を目ざしている。