2007.9号

<第2部>

  セ レ モ ニ ー 化 し た ITMA

セールスポイントは「省エネ」「高品質性」ラヴェルの「ボレロ」と「カラシニコフ銃」


 編集部 ここ10年以上、革新機とか画期的改良機といえる機械は出現していない。そこで、マイコン制御だLANシステムだとか、恐らく各社一斉に「エコ機」と称する省エネタイプを謳い文句としてPRするのではないか。

 記 者 とすると、いわゆる「スピード違反」がなくなるということか。'80〜'90年にかけては超高速機、すなわち高生産機がもてはやされた。在来機比率30%生産性が上昇すれば、機械本体の値段は2倍になっても十分にペイでき、製品の納期も短縮できるとのメリットをPRした。事実、綿紡ではカード、練条、粗紡から精紡に至るまで1.5〜2.0倍の生産アップを果たしている。織布もレピア、スルーザー、ウォータそしてエアジェットとめまぐるしい革新的普及をみたが、いまだ各機種混在している。

  精紡でのリングか空紡機、すなわちクローズドエンド糸かオープンエンド糸かの論争も、未だ併走したまま。オープン糸でもロータ空紡かエアジェット結束紡かも後者が生産性で追い越したが、マラソンで云えば先行したロータをAJSが追っかけて25km地点に差しかかった状態だ。どちらも暴走せずにコントロールしているので、当分は水面下で技術改良で互いに切磋琢磨することになると思うよ。というのも、世界人口70億人に達するのはあと10年前後だが、その時には高生産性のOE糸がリングに代わって40%以上占めると思われるからだ。

  3年ほど前にサウラーグループが繊維リサーチ企業に依頼して「世界の繊維生産統計および動向」をまとめたCDが弊紙宛に送付され、ザッと読んだところでは、安い衣料の生産の60%は中国に集中(合繊も含め)しているとしている。生産から見るかぎり、当分は印パもトルコもメキシコも歯が立たない。米やロシア、中央アジアなどの綿花の最大買い付け国は中国で、内紛中のスーダンからの(エジプト綿に近い長繊維のものが採れる)輸入も増えている。

  しかしその中国も水不足と砂漠化で綿花の耕地が縮小、加えて紡織工場の労働条件や環境が悪いとして、特に若い男女工員が集まらないようだ。特に広東・広州あたりでは深せんやIT企業に向い、加工糸やニットの工場での賃金が10年前に比べ2.5〜3倍出さないと人が集まらないと悩んでいる事業所が多いと、昨年のCITME北京展の日欧の出展小間で直接聞いた話だ。
 北京から帰って、早速紹介したが「設備投資はオリンピック前年がピーク」「人民元切り上げが繊維業界に大打撃を与えている」「品質向上で付加価値製品」の3点を指摘した。今年の投資傾向を眺めるかぎり、投資拡大よりも、省エネ機や自動化高級機などに入れ替えるスクラップ・ビルドが大半を占めるという。例えば、ワインダもエアスプライサ付き自動機が流行のように日欧からの輸入がいぜん続いている。自動的に結び目のない巻き糸が可能で、品質も安定するとあっては、輸入トレーダの支持もあって、積極的に導入をはかる大手中堅紡績が増えている。ただし省力装置、例えば自動ワインダでいえばACFやボビントレイ、AD(オートドッファ)などは不要だとしている。合繊を嵩高加工するDTY機も当然ながらAD装置付きはない。

  話がITMAから中印市場の動向にまで及んだが、これらの市場が日欧の繊機メーカーの"サバイバル戦略"のカギを握ることになろう。となれば、先進機器の主要なサプライヤーが集約する日欧でヤセ気味・規模縮小の展示会を開催するよりも、直接反応・動向が得られる中国で2年毎、インドで4年毎、合間を縫ってトルコあるいはブラジルで現地開催しても悪くないハズ。

  日本のOTEMASも米のATMEも終息した。ITMAも欧州の有力イベント会社に会場の仕切りやPR、出展募集まで丸投げするようになってから、だんだん活気が失せてきた。しかも相変わらずの開催準備や会期中の運営、サービス(食堂やプレスルームなど)も一律で、出展社のみならず、ビジターの入場登録のもたつきぶりも毎回のこと。出展小間代も入場料も高過ぎる。これも開催運営を赤字や種々トラブルなどリスクを避けるため、イベント社に任せるに至ったということだろう。
 かつてのATMEグリーン展では、ほとんどが周辺市民によるボランティアで、受付事務からプレスルーム、会場とホテル間の送迎バス(無料)の運営まで彼等の手で行われており、外来者には親しみやすく親切で、ボランティアの主婦の車で20数キロの宿泊モーテルまで送ってもらったことがあった。
 ITMAではバーゼル、ハノーバ以外は大都会で、しかも観光シーズン中に開催されるので、ホテル料金は最低30%は上積みされる。それでいて変わり映えのない会場の雰囲気、まるでラヴェルの名曲「ボレロ」が演奏約15分の間、リズムのラッラララッタを164回繰り返し、最後の30秒だけが盛り上げのリズムに変わって終わる。50年前から同じようなパターンで開催されてきて、いまなお踏襲しているようなら、出展申し込み社も減り、規模も縮小され、欧州でのITMAはいずれ日米の例にも洩れず衰退していくことになる。メーカーも自動車と同様に、本国に開発設計や経営統轄だけを残し、機械はコストの安い地域に分散し、標準部用品は現地調達してアセンブリする方式をスイスのサウラーやリーターでは早くから採り入れている。そのうちテニスの「ウインブルドン現象」と同様のことが日欧で起こることも考えられる。となれば、これまで見られたM&Aや資金調達、株式取得して傘下・連結決算によるリストラと節税のためのグループ化といった大きな再編は、織機やニット機あるいは特殊ワインダやツイスタ等で起こるかも知れないが、派手な合併や買収は当分動きそうにない。
 ただサウラーグループ入りした合繊プラントやDTYメーカーのバーマグが昨年度に続いて今年も赤字になりそうだし、撚糸機のアルマ社も生産縮小で悩んでいることから、サウラーとしてどうするか注視してみたい。なぜなら転売か切り離しなどグループ内の再編成を含めて震源地となるかも知れないから。

  云い忘れたが、画期的な新規開発の機械出品は今のところ情報は入っていない。となると従来機を改良した「省エネ機」「品質向上生産機」「操作・保守容易」「安価で性能安定」といったテーマを絞って出展するメーカーが多いのではないか。安直といえば安直だが、狙いは中印向けならば納得がいく。

  旧ソ連で大戦後間もなく「AK47」という簡単操作、命中率の高い銃が開発された。設計したのはカラシニコフという20代の青年である。これが安くて精度が高いことから、冷戦時代にアフリカや南米など紛争地に武器援助として大量に出回った。作り易いことからブレジネフ・ソ連のアフガニスタン進出に対抗して現地の抵抗勢力ムジャヒディンが使ったのはパキスタンの鉄工鍛冶で手作りされたカラシニコフ銃だった。そのご米CIAを通じて入手した対戦車、対空携帯砲のバズーカやスティンガーと称されるベビーミサイル爆弾で、ソ連軍を撃退した。
 カラシニコフ銃はそのご改良されて飛距離や命中率、発射速度も速くなった「AK103型」も基本的なメカはほとんど変わっていない。しかも安価というのが通説だ。
 繊維機械も紡績、織布、編物といった用途に合わせて開発・改良を重ねてきただけで、基本的な操作・メカは今日まで変わっていない。水や空気を利用してワタを撚ったり、糸を織ったり、ニットなら針を使うなどの工程を機械に置き換えただけだ。飛行機もライト兄弟は翼をつけプロペラを動力で回して推進させたが、100年たってF22ステルス戦闘機に発展したとしても、プロペラがジェットに代わり、原爆も60余年前にプルトニウム型とウラン高濃縮型の2種が開発されたのみで、水爆は危険過ぎてミサイルに搭載できないし、中性子爆弾も巨額の研究費を投じたものの核融合エネ発電と同様、未だに実験の域を出ていない。
 となれば、普遍的に付加価値の低い繊機、しかも労働生産性が低く、かつ受注生産形態の販売物だけに、よほどの新鋭革新機でないかぎり、しかも売れる自信がなければ、到底開発に手をつけることは、今日の状況からみて難しい。 

  いま省エネが世界的なテーマとなっているが、米の省エネ政策の一環として、ガルフウォー(湾岸戦争)で原油が高騰した時から節電を呼びかけ、その一例として「白熱電球を蛍光灯に取り替えよう」とキャンペーンを張った。そのご毎度も繰り返しPRしたが、遅々として入れ替えは進まない。蛍光灯は同じ輝きで白熱に比べ電力消費は4分の1から5分の1ですむ。しかし蛍光灯は1ポン平均4.8ドル、一方の白熱電球は1ケ約80セントで約6倍の差がある。しかも中流以下の85%の家庭では数代にわたって白熱を使ってきており、眼の慣れもあり、かつ貧困も手伝ってつい安い白熱を買うらしい。最近では50セントの中国製が出回っており、このことも取替えを阻んでいる。
 これらの例を中印などの繊維設備に置き換えてみると、旧態の老朽機でも使い慣れたものを簡単に廃棄しない。せいぜい同じ機構の中速・中級機に置き換えるぐらいのものだ。オーナーは儲けを設備投資に回さず、まず家を建て替え、次に日欧製の高級乗用車を買うのが中国人気質。だからカラシニコフを真似て、繊機も扱い易くて機構はシンプル、品質面から中速で省エネ機(超高速機の電力消費対生産比では十分ぺいできるとされる)が、今後の需要拡大のカギを握るのではないか。

 以上