2007.9号

国際繊維機械展・考

== ITMA ミュンヘン2007 直言 ==

<第1部>

 1960年代後半から4年毎に欧州各地持ち回りで開催を続けてきたITMA(国際繊維機械展)だが、巨大かつ主要な市場がトルコ以東、特に中国をはじめインド、パキ、ネシアといった安い労働人口の多い諸国によって集中形成されつつあることから、ついにITMA アジアをシンガポールで6年前の'01から2回開催、3回目は中国・上海で明年8月下旬に開催すると昨年10月に発表している。

 テニス界で「ウインブルドン現象」といわれているものがある。主催は英国テニス協会だが、ここ20年近く、英国の選手は男女共に準々決勝にも残れないでいる。'99年のITMAパリ展では地元社の出展は大幅に減り、英で初めて強引に開催したバーミンガム展では、スイスやドイツ、日本の大手出品社が直前にとり止めたことでビジターたちの失望・反感は大きかった。そして今度も独はハノーバから初めてのミュンヘンに会場を移しての開催で果たしてEU以外のビジター、特に中印トルコといった期待市場からの客がヨーロッパ観光を兼ねて視察にくるかどうかで「ITMA欧州開催の持続性」を占う踊り場と時期にきていると言えそうだ。彼等にとってもうひとつの懸念は「ユーロ高と鋼材などの原料高で輸出が阻害される悪条件」をどう克服できるかであろう。地元に需要が少なく、メーカーの生き残りはアジア向け輸出が成否のカギを握っていると広言する販売責任者がほとんどだ。

 となれば、超革新機やミニコン制御の超自動機、いったんトラブレば補修・メンテが大変な高精度・超高速機への開発・改良は足踏みする。なぜなら、これらの地域に導入あるいは稼動している機械設備は、1970〜80年代に開発された、あるいは商品化されたものが、目下のところ主流となっているからだ。ただし少々生産性は劣るものの@省エネ化A補修・メンテの容易なものB単価の安いもの。そしてC糸や布の品質が持続安定可能な生産機などが、目下のところの要請であり需要の大勢を占める。

 もともと革新技術あるいは高性能新型機を広く世に問う機会と場所として4年毎に、主に独仏伊の3国間で持ち回りで開催されてきた。それが特に東西冷戦後に続く湾岸戦争直後のハノーバ展あたりから出展社は少なくなり、新開発・新鋭機のデモは極めて少なくなり、次回の'95年ミラノ展ではバブル期に投資した研究開発の成果が、いくつかの企業から発表されたものの、市場が欧米や日韓台といった繊維加工先進諸国から中進途上国へと、またポリエスを中心とした合繊も中国を中心に生産設備の導入が拡大し、いっきにノーマル在来設備装置・機械が需要の中心となってしまい、'97年のアジア金融危機と相まって、需要は一時大幅に後退した。その間、EUの統合拡大にともなって繊機業界はM&Aや生産縮小・閉鎖あるいは倒産といったドラスチックな再編成を余儀なくされ、'99年のパリ展を経て'03年のバーミンガム展で、ついに過去最低の出品者数とビジターの減少が顕著となった

 果たして、今年のミュンヘン展で斬新な機種・機械・装置(省エネ化と省力化へのコントロール)の進展が見られるかどうか。再編が一段落したかに見える西欧、淘汰されたのちの日韓台の既存メーカー、そしてIT武装した新規参入組みも出てきそうな気配もあって、沈滞ムードを払拭できるかどうか。少しは期待してみるのも良いかも。